有力候補の開発は続々中止…認知症の新薬はなぜ登場しない

6月に京都府宇治市の教会で開かれた「認知症カフェ」/(C)共同通信社

「いま見れば、ACh減少は病気の原因ではなく病変によって神経細胞が消失したことによる結果なのですが、当時はそうは考えられませんでした」

 アミノ酸の一種であるグルタミン酸は、脳内では興奮性物質として記憶や学習に役立っているが、病的な脳では逆に興奮性の細胞毒として働く。メマンチンは、グルタミンが神経細胞表面にくっつくのを抑えてその毒性を緩和するが、やはり根本治療薬にはなりえない。つまり、いま使われている認知症薬は進行を止めることはできないのだ。

■新たな攻め口による開発も

 では、AD発症メカニズムを「コリン仮説」から「Aβ仮説」に変えたのに、なぜAD治療薬の開発に成功しないのか?

「Aβが原因と考えられるようになったのは、家族性アルツハイマー病の原因となる遺伝子変異がすべてAβの量を増やすことがわかったためです。しかし、マウス実験ではAβだけでは神経細胞はほとんど死にませんでした。一方、時間をかけてタウをためれば神経が死ぬことはわかっています。そのため、ADはタウが原因で薬のターゲットをタウにシフトすべきとの考えもあります。しかし、タウだけたまるピック病や前頭側頭葉変性症などはADと臨床症状はまるで違う。通常の人の脳と違ってADの脳ではまずAβがたまり、その後タウが同じ場所にたまっていく。ですから私はタウの蓄積だけでADが起きるとは思いません。やはりADの原因がAβとタウであり、そのキッカケはAβの蓄積であると思います。ただし、開発中の薬によるAβ除去は、症状が出た段階では効用は少ないようです」

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