進化する糖尿病治療法

健診で異常なく痩せているのに…血管年齢が高い人のナゼ

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 50代を過ぎたら、病院で数年ごとにぜひ受けていただきたいのが血管年齢を調べる検査です。血管の老化度合いを調べる検査で、これによって動脈硬化の進行具合が分かります。

 血管年齢は、心臓足首血管指数(CAVI)で調べられます。

 CAVIは、心臓から出て動脈に伝わる脈波の速度を測定したものです。柔軟性に富んだ血管では脈波はゆっくり伝わり、硬くなった血管では脈波は速く伝わります。つまり、動脈硬化が進行するほどCAVIの値は高くなります。ただし、血管の狭窄がひどくなり過ぎると、脈波が伝播されにくくなって、CAVIが低い値になることもあります。

 同時に測定するABI(足関節上腕血圧比)は、足首の血圧を上腕の血圧で割ったもの。健康な人では、横になった状態で血圧を測定すると、足首と腕の血圧は同等か、足首が少し高い数値になります。

 しかし、足の動脈硬化が進行していると、腕の血圧より足首の血圧の方が低くなります。数値が低くなるに従って、狭窄の可能性が高くなります。

 これらは、苦痛を伴う検査ではありませんし、値段も高くありません。動脈硬化の疑いがあるなら保険適用で数百円、自費で受けても5000円前後。

 また、大学病院や総合病院では「総合内科」や「糖尿病・代謝・内分泌内科」「循環器内科」「高血圧内科」などで受けることができますし、クリニックでも糖尿病や循環器の治療に力を入れているところでは、血管年齢の検査を受け付けています。

「血液検査の結果がそう悪いわけじゃないから受けなくてもいいだろう」「標準体重だし、動脈硬化と言われたことがないから、大丈夫だろう」などと考える人もいるかもしれません。

 しかし血管年齢は、血液検査の結果が悪くなくても、年齢より“老けて”いる可能性があるのです。

 2人そろって50代のご夫婦は、「健康診断の結果で“異常あり”はなかったけど、血管年齢はどうかと思って」ということで、自費でCAVIとABIを受けたそうです。

 ダンナさんはやや太り気味。専業主婦の奥さんはどちらかというと痩せ形で、区の健診を何年かに1度受けているとのことでした。

 血管年齢の結果は、ダンナさんは年齢相応。一方、奥さんは動脈硬化の進行が結果から読み取れました。「痩せているのに、私がまさか?」と驚いたと、奥さんは言います。

 話を聞くと、奥さんのいびきがすごくて、5年ほど前から寝室を分けているそうです。奥さんが睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査を受けたところ、重症のSASが判明。SASは眠っている間に呼吸が止まる病気で、10秒以上の気流停止である無呼吸が1晩に30回以上、もしくは1時間当たり5回以上あれば診断されます。SASは、糖尿病、高血圧、脳卒中・脳梗塞、心房細動などのリスクを何倍も上げることが報告されています。動脈硬化にも悪影響を与えますが、SASを疑って検査をしないと、判明しないケースも少なくありません。

 特に、この奥さんのように痩せ形の人は分かりづらい。SASは肥満の人に起こりやすいと考えられがちですから。しかしSASは顎が小さいことも原因になり、こういった方は若いころは無呼吸でなくても、加齢とともにわずかに体重が増えただけで、もともとの気道の狭さが災いして、SASを発症しやすくなるのです。

 動脈硬化を進行させる要因はたばこ、肥満、隠れ高血圧、SAS……など多岐にわたっています。どれかひとつでもNGなものがあれば、動脈硬化は進行していく。

 CAVI、ABIの数値が悪い方、リスクの因子を多く持つ方は、さらに頚動脈エコー、冠動脈CTなどの検査も必要になることがあります。脳梗塞・心筋梗塞などを予防するには個別の追加検査も必要となる場合があります。何らかの持病があって、それぞれ病院に通っていても、担当医は自分の専門分野に関することはしっかり診るが、そうでないことはおざなりになることもあります。

「自分の健康は自分で守る」という意識を持って、血管年齢、ひいては動脈硬化を定期的にチェックしていただきたいと思います。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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