COPDの新たなメカニズム解明 新治療法の登場につながるか

(皆川医師提供)

 海でおぼれているような息苦しさが続く……。これがCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の末期だ。先日、東京慈恵会医大と北里大の研究グループが新たな予防法・治療薬の開発につながる研究成果を出し、英科学誌「Nature communications」オンライン版に発表した。研究メンバーの一人、東京慈恵会医大呼吸器内科講師の皆川俊介医師に話を聞いた。

 COPDは慢性気管支炎と肺気腫の総称で、国内の推定患者数は500万人以上。しかし、治療患者数は約22万人(2005年)で、多くは治療に結びついていない。

「認知度が低いのが問題です。肺機能検査(スパイロメトリー)ですぐに判明しますが、受けていない人が大半です」

 主な原因は、たばこ。喫煙本数×期間で、いつ発症するかが違ってくるが、加齢もCOPDに関係しているため、患者のほとんどは高齢者だ。禁煙時期で呼吸機能の低下の速度が違い、発症後の過ごし方、いつ亡くなるかが大きく変わる。

 COPDは有効な治療法がほとんどない。

「たばこの有害物質で気管や肺胞に慢性炎症が起こり、肺胞が酸素を取り込めなくなる病気とは分かっていましたが、炎症は強いものではなく、これが原因か、それともCOPDによる結果か、メカニズムがはっきりしていませんでした。だから完治につながる治療法もありませんでした」

 対症療法しかなく、初診時にすでに重度の患者も多いので、死に向かうのをわずかに遅らせるだけ……という患者も珍しくなかった。

■有効な治療ターゲットになりえる2つのポイント

 今回、皆川医師らが発表した内容は、ごく簡単に言うと、「たばこの有害物質によって、肺の細胞内にある本来無害な鉄が有害な鉄へ分解。それによって細胞膜を構成する脂質が酸化し、細胞死に至り、COPDを発症する」。

「もともとCOPDの患者の肺では、喫煙で肺の上皮細胞が障害され、細胞死が存在することは明らかになっていました。このメカニズムを解明したことになります。まずは、細胞死には鉄とリン脂質が関係していて、有害な遊離鉄によって細胞膜のリン脂質が酸化し、細胞死を引き起こす“フェロトーシス”が生じる(図中(1))。では、有害な遊離鉄はどうしてできるのか? 本来、細胞内の鉄はフェリチンという安定・無害な状態で貯蔵されていますが、細胞内タンパクの分解機能オートファジー機構で有害な遊離鉄へと分解されるのです」

 患者にとって重要なポイントは、メカニズム解明によってQOLを改善させるような新しい治療が期待できること。この研究には治療ターゲットになりえる次の2つのポイントがある。
ポイント①…本来の無害な鉄は、「NCOA4」という積み荷を運ぶトランクのようなもので運ばれ、オートファジーという処理工場で有害な遊離鉄に分解される(図中(2))。このNCOA4の働きを抑えることで、有害な遊離鉄への分解を抑制し、結果、細胞膜の酸化反応やフェロトーシスを抑制する。
ポイント②…細胞膜を構成する脂質の酸化は「GPx4」というタンパクでも抑制できる。GPx4を強化することで、酸化を抑え、細胞死を回避できる。

「NCOA4やGPx4を標的とした治療は十分に可能だと思います。気道に特異的にアプローチしなくてはならないなど課題はありますが、遠くない将来、根本的治療法がなかったCOPDに対する治療薬が登場する可能性は高いです」

 だからこそ、いま私たちが肝に銘じるべきは、COPDの早期発見。喫煙者や受動喫煙者は呼吸器内科でスパイロメトリーの検査を。

 なお、息苦しさ、呼吸困難などの自覚症状が出てからでは、“早期発見”とは言えない。

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