元農水省事務次官が44歳長男を殺害した事件。元次官は、引きこもりがちの長男から暴力を受けていたのだという。
果たして、中高年の引きこもりにならない育て方はあるのだろうか?
「私は、産業医面談を通して、タフな環境でも不安やストレスで悩まず働き続ける人たちの特性を観察してきました。そして、このような人たちには、子ども(学生)時代に共通する育まれ方があることがわかりました。それはテストの点数や偏差値、IQなど数字で示される認知能力だけでなく、コミュニケーション力、目標を持って努力するなどの非認知能力が高いこと。特に社会に出ると、学生時代とは違い、自分が劣っていることを認めざるを得ません」
時にはショックを受け、職場に足が向かなくなる。このような反応は、落ち込み(抑うつ)、逆ギレ、引きこもり(遅刻の常習や出社拒否)という形で表れるという。
「一方、非認知能力の高い人は、自分の知らなかった新しい世界の人々と交わり、協議、協調し、試行錯誤を繰り返し、転んでも立ち上がることができます」
大人になって求められることは、「勉強」から「仕事」に変わる。大きく3つが変わってくる。 1つ目は、「自分の問題を解決すること」から「相手の課題を解決すること」への変化。
2つ目は、気の合う友達と過ごしてきた環境から、仲良くしづらい人とも一緒に過ごさなければならない環境への変化。 3つ目は、テストの点数で評価をされることから、行動で評価されることへの変化。机上の理論ではなく、プロセスが評価基準となる。
「これらに対応できないことが、メンタルヘルス不調の原因になっていることが多々あります。非認知能力の高い人は回復力が上回り、この変化にしなやかに対応できているのです」
では、非認知能力はどのようにすれば身に付けられるのか。
「未就学児であれば、好きな遊びに集中して取り組ませてあげること。親と一緒に絵本の読み聞かせや、料理・掃除・片づけなどをする。そして、許容範囲内で失敗も経験させること。就学後はさまざまな体験活動を継続させる。学校や地域における好きなクラブ活動などで、仲間たちとともに、挑戦・成功・失敗などの体験を継続することで、周囲との協調や思いやりを含めて身に付けられるのだと思います。好きな遊びや部活動、絵画やボーイスカウトなどの活動を続ける。好きなことに仲間たちとともに継続的に没頭する中で感情(好きや楽しさ、達成感や悔しさ、協力や思いやり)のサイクルが自然と回り、非認知能力は育ちます」 単純に言えば、知育教育(読み書き)の塾より、サッカー教室などに通わせた方がいいのかもしれない。
ちなみに、殺害された元事務次官の長男はツイッターに「勉強をしたくないのに、勉強をしていた」「勉強をしなければ、母親におもちゃを壊されるという教育を受けていた」と書き込んでいた。 =構成・中森勇人
ストレス社会の生き延び方