がんと向き合い生きていく

「経済毒性」がん治療による経済的な副作用も考えるべき

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 慢性骨髄性白血病は、かつては骨髄移植をしなければ助からない病気でした。それが分子標的薬の「イマチニブ」という特効薬が登場し、多くの患者は病気をコントロールすることができるようになりました。内服さえしていれば、健康な人と同じように生活できるようになったのです。

 しかし、このイマチニブは薬価が高額なのが問題で、かつては1錠3100円で、これを1日2~4錠内服しなければいけません。高額療養費制度の対象になっていることもあり、実際の患者負担はもっと少ない金額です。現在ではもっと低額となり、ジェネリック薬もあります。ただ、イマチニブはいつまで内服しなければならないのかがはっきりとは分かりません。以前は、イマチニブの医療費の支払いが負担になり、患者が治療を中断せざるを得ないような切実な事態もありました。

 最近は、さらに高額な分子標的薬がいくつも登場し、免疫チェックポイント阻害剤に至っては1000万円単位です。幸い日本は国民皆保険制度で、高額療養費制度などの公的保険制度が整備されているので、患者の自己負担は軽減されてはいます。しかし、それでも患者のライフスタイルに影響しているといえます。このような治療に伴う経済的な負担が、ライフスタイルに影響を及ぼすものを「経済毒性」と呼ぶようです。薬の体に及ぼす副作用=毒性と同様に、経済的な副作用も考えるべきというわけです。

 病気になった時は、遠慮なく病院の相談室(相談支援センター)で相談し、可能であればできるだけ公的医療費助成制度を利用すべきだと思います。

 がん診療拠点病院では、他の病院に通院している患者でも相談にのってくれます。

 混合診療(保険診療と保険外診療)、世帯合算、限度額適用認定証、高額医療・高額介護合算療養費制度、無料低額診療制度など、さらには休職時の傷病手当金、復職・就労の継続といったさまざまな相談を受け付けています。ハローワークからの出張相談を行っている病院もあります。いずれにしても、まずは相談してみることをお勧めします。

 気になるのは、AYA世代(15歳以上40歳未満)では、40歳未満であるため介護保険が適用されず、在宅サービスを利用する際の経済的負担や、介護する家族の負担が大きいという問題があることです。この世代の患者は、学生、会社員、子育ての最中など、さまざまな状況でがんに罹患しています。以前から言われているのですが、国はこの世代のがん患者に対する負担軽減を急ぐべきと思います。

■個室料金のあり方も見直したほうがいい

 また、医療費は保険制度で緩和されるのですが、個人負担の「個室料金」はどうしたものかと疑問に思うことがあります。本来、同意書による同意の確認を行っていない場合や、患者本人の「治療上の必要」により特別療養環境室へ入院させる場合などでは、料金を求めてはならないことになっています。患者側もプライバシーの問題をはじめ、周りが気になって寝られないなど、いろいろな事情を抱えています。個室や4床室以下での差額ベッド料金は、病院によって違いますが、東京都内と地方でも大きく違うようです。控室があるような特別な個室は別として、狭い部屋でもホテル代よりはるかに高額なところもあります。個室料金の“あり方”をあらためて考えてみるべきではないでしょうか。

 病状によって入院期間が長くなるのは仕方ありません。しかし、高額な個室料を払っている患者は長期入院が可能で、一般の患者は早期退院を求められる……といった話を聞くことがあります。病院が「個室料金で稼がなければならない」という姿勢はどうも納得しかねることです。

 また、会社員は所得税が給料から天引きされているため、確定申告をしたことのない方がほとんどでしょう。医療費の合計が1年間で10万円以上になれば、申告すると医療費控除の対象になることを知っておくべきです。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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