ストレス社会の生き延び方

パワハラを未然に防ぐ「し・か・り・ぐ・せ」の極意

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 大手広告代理店に勤める女性社員が過労自殺した事件は記憶に新しい。彼女には長時間労働以外にも、上司のパワーハラスメント(パワハラ)があったとされる。

「上司をはじめ、周囲の同僚も自分たちの行為が自殺につながることまでは考えが及ばなかったでしょう」

 パワハラにならないためには、まずは「怒る」と「叱る」の違いを知ることが先決だ。

《怒るとは自分の感情を相手にぶつけることで、叱るとは相手のことを想い、注意すること》

 これはテニスの松岡修造が日めくりカレンダー「まいにち、修造!」(PHP研究所)の中で述べていることだ。

「怒るときに、相手を承認すると“叱る”に変わると私は考えます。そして叱るときにぜひ、守ってほしい項目は、その頭文字を取って『し・か・り・ぐ・せ』になります」

 どういうことか。まず、「し」は身体的接触は絶対禁止。

「多くの会社でパワハラかどうかの認定をするときに最初の基準となるのが、身体的接触があったかどうか。直接叩いたりするのはもちろん、ペンなどで叩く、ものを投げるというのも絶対にやってはいけません。例えば、普段なら肩をポンポンと叩くことは問題にならないのですが、関係がまずくなると『小突かれた』とか、女性なら『触られた』となってしまいます」

「か」は過去は責めずに、隔離して2人で。

「過去は責めても変わりません。過去に何かがあったなら、『今後はどうするの?』と未来の話に言い換えましょう。そして、部下を叱るときには人前ではなく、2人でというのが基本。面談にやってきた外資系に勤務する方のケースでは、部下を大勢の前で叱ったことで人事部から呼び出されたのだと言います。ところが、『前職の日本の銀行では、皆の前で叱ることを推奨していました』とのこと。このような企業文化が根強く残っているので、気を付けましょう」

「り」は理論的に。

「感情的になってはいけません。次の『ぐ』を守れば可能です」

「ぐ」は具体的に。

「具体性が大事です。そうでないと、何で叱られているかわからないということになりかねません」

 最後の「せ」は性格を責めない。

「30代半ばの管理職の女性が20代後半の女性職員に雷を落とした事例があります。遅刻が多く、短いスカートに胸元の開いたトップスという部下のいでたちに、『いつも遅刻してきてどういうつもり! やる気あるの? ないの? 格好からしてだらしない。その性格から直しなさい』と怒鳴った。この場合、身体的接触はないので『し』はOKですが、隔離はできていないので『か』はダメ。感情的に怒鳴ったので『り』もダメ。『ぐ』は服装のことを言ってないのでNG。そして『せ』についても、性格を責めているので逆効果です。直しなさいと言っても効き目は期待できません。冒頭の自殺事件では、女性は上司から『髪ボサボサ、目が充血』『女子力がない』と言われていたようです。このように業務に関係のないことで叱るのも論外です」

 部下を注意するとき、「し・か・り・ぐ・せ」を思い出したい。

(構成・中森勇人)

武神健之

武神健之

東京大学医学部大学院卒。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。年間1000件の健康相談、ストレス・メンタルヘルス相談を行う。著書に「職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書 上司のための『みる・きく・はなす』技術」(きずな出版)などがある。

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