独白 愉快な“病人”たち

治療9年目…江本孟紀さんは加齢黄班変性で人生観が変わった

江本孟紀さん
江本孟紀さん(C)日刊ゲンダイ

 2年前にスキルス胃がんで手術を受けたけど、今のところ大丈夫。“お涙ちょうだい話”にされるのは嫌いだし、今は2人に1人はかかるといわれているがんの話はいいとして、それよりも「加齢黄斑変性」に気をつけたほうがいいですよ。あまり聞かない病名でしょ? だからどういう病気か説明しても、なかなか理解してもらえないんですけど、とにかく厄介な病気なんです。

 2010年の年末に、ひょっと右目だけで見てみたら、左目になんか視界に丸いもんがあるなと。お月さんがかかってるみたいにね。でも、両目で見たらちゃんと見えるから、気のせいかと思ってたんです。ただ、しばらくしても症状は変わらない。それで日本大学病院の眼科の専門医にかかったら、加齢黄斑変性と診断されました。

 加齢黄斑変性というのは、目の奥の網膜の中心の黄斑部というところの具合が悪くなってしまう病気です。加齢によって網膜の下に新しい血管ができて水がたまったりして、モノが歪んで見えたり、丸く暗い部分があるように見える。こんな病気があるのか、先々、目が見えなくなるんじゃないか……と結構ショックでしたね。

 完治する治療法はないそうで、「進行を抑えられるかもしれない」という治療しかありません。ボクが受けているのは、新生血管の成長を抑える薬を白目の部分に注射して、目の中の硝子体に入れる治療法。麻酔をするので痛くはない。針が入ったときは、ズンと重い感じはするけどね。反対側の目は何も見えないようにしてくれるし、針を打つ側の目も麻酔で視界がぼやけて、針の先が近づいてくるのは見えません。でも、まあ怖いですよね。

 効果は人によって千差万別らしく、良くなる人もいれば、かえって悪くなる人もいる。しかも、この注射が1回17万5000円もするんです。保険が利くから自己負担は5万円ぐらいだけど、それでも毎回5万円かかったら大変でしょ? 年金しか収入のない人は、効くかどうかもわからない治療のために、1回5万円の治療なんてきついですよね。

 ボクの場合は一応進行しないようになったんで、効果はあった。ところが4年前、新生血管がプチッと切れて2、3日入院しました。でもその後、ここ2年ぐらいは3カ月に1回、検査に行くだけで済んで、積極的な治療はしていませんでした。ただこの間、また少し水が出てきたんで注射しました。

 予防のために注射をするというやり方もあるんですけど、ボクの主治医は「両目を使えばちゃんと見えて日常生活に支障がないなら経過観察だけにして、もし進行してきたら手当てしていこう」という考え方。ボクもそれで納得しています。iPS細胞を使った根本的な治療に期待しているんですが、ボクが生きている間に標準治療になればいいけど。

■日中は常にサングラスをかけている

 加齢黄斑変性は欧米人に多くて、日本人も食生活が欧米化したことによって増えてきた現代病だといわれています。直接的な原因は加齢だから、どうしようもない。昔は「人生50年」といったぐらいだから、ボクの年齢では体の機能としてはもう終わってるんですよ。みんな自分だけは元気だと思ってるけど、60歳すぎたらいつ何かしらの病気になってもおかしくない。病気になったら、人生に区切りをつけて“これから”を考えないと。ボクは楽しもうと思っています。

 楽しむためには、目は大事です。眼科に定期的にかかるようになったので、白内障や緑内障といった他の目の病気にも備えられるようになりました。紫外線に気をつけるようになって、日中はサングラスを常にかけています。

 今もサンケイスポーツ、ニッポン放送、CSのフジテレビONEで野球解説をやってるから、毎年2月は宮崎と沖縄のキャンプに取材に行っています。3月にはアメリカのスプリングキャンプでメジャーとマイナーを見に行きます。

 解説のときも、放送席に日が差してる場合があるんで、紫外線には気をつけています。

 愛用しているのは、知り合いから勧められた、メガネの上からかけられて、あまり暗く見えないサングラス。目の横のほうから紫外線が入ってこないように脇もガードされているすぐれモノです。目に異常を感じていない人でも、40代ぐらいからかけたほうがいいですよ。ボクはこのサングラスのおかげもあって、病気の進行がだいぶ止まってるんじゃないかな。

 加齢黄斑変性のための薬はないので、服用しているのは血糖値を抑える薬、栄養剤、ビオフェルミン(ビフィズス菌)だけ。血糖値は10年ちょっと前から高くなってきたんです。でも、糖尿病って症状が出ないから、つい食べ過ぎてしまう。もともと人の3倍ぐらい食べるからね(笑い)。酒もたばこもやらず、食べることしか趣味がない。仕事であちこち行くから、これからもうまいもんを食い倒してやろうと思っていますよ。

 (聞き手=中野裕子)

▽えもと・たけのり 1947年、高知県生まれ。高知商業―法政大学―熊谷組を経て、71年に東映入団。その後、南海、阪神でエースとして活躍し、81年に引退。92年から参議院議員を2期務めた。2017年には旭日中綬章を受章。

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