職場でのメンタル不調を防ぐため2015年からストレスチェック制度が義務化(常時50人以上の事業所対象)された。 同年の精神障害の労災請求件数は1500件超え。決して他人事では済まされない。
「例えばマラソン選手が、のどが渇いてから水を飲むのではなく、あらかじめ水を飲む場所を決めているように、疲れてから休むのではなく、疲れる前にあらかじめ休みを取っておく。そのためには継続するストレスをうまく区切る必要があります」
ストレスを「区切る」には、「時間」「空間」「五感」の3つの方法が挙げられる。
時間を区切るには、短期的なものと長期的なものがある。短期は昼休みにランチをしたり、お茶を飲みに行くなど。長期は週末に有給休暇を足してロングウイークエンドにするなど。
「ストレスは『強度』×『持続時間』で構成されるので、時間を区切る意味は大きいのです。アメリカの研究ですと、人は有給休暇を取って旅行を計画すると、その8週間前から満足度、幸せ度が上がっていくそうです。なので、3カ月に1回、もしくは半年に1回程度、2泊3日程度の小旅行をおすすめします」
空間を区切るには水平方向と垂直方向があるのだという。水平方向は距離を取る。例えば、会社のある場所から少し離れたところでランチをするといった具合だ。
「週末に東京を離れるなら箱根より関西、関西より九州、九州より海外と遠くなればなるほど、自分のことをより客観的に俯瞰できるようになります。時間がなければ垂直方向に距離を取るのがおすすめ。高層ビルのラウンジや展望台など。『高いところから見ると人も車も小さく見えて、俯瞰して物事を眺められ、冷静になれた』という方もおられます。ある方は飛行機での移動で『小さくなっていく車や建物を見ていると自分の悩みやストレスなんて小さなものだと思えてくる』と言います」
最後に五感を区切る。これは「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」に変化を与えること。
「カラーセラピーで視覚的に、アロマテラピーで嗅覚的な気分転換を図るのもいいでしょう。相手をリラックスさせたいなら木目調(茶色)や緑が効果的。スターバックスのカラーはその典型です。ラベンダーはリラックス、シトラスで仕事モードと、香りは行動を区切るのにも役立ちます。おいしい料理を食べて味覚を、好きな音楽を聴いて聴覚を、温泉に入るなどで触覚をと少し意識をすればいつでも五感を区切ることが可能です」
3つの「区切る」をまとめて行う方法で最も効果的なのはやはり、旅行だ。
「環境は記憶を呼び戻すという論文があります。落ち込んでいるときこそ、幸せなことがあった場所などを旅行するのが効果的ですね」
空いた時期に休暇を、と言っているとなかなか実現しない。あらかじめ休暇を確保し、仕事をするくらいの思い切りが欲しいところだ。
=構成・中森勇人
ストレス社会の生き延び方