不幸中の幸いといっていいでしょう。大腸がんの手術を受けていたと報じられた歌手の山本譲二さん(69)のことです。腹痛で病院を受診したところ、がんが見つかって緊急入院。ステージ2Aで、腫瘍の大きさは7センチ。腸閉塞を起こしていたものの、転移はなく腹腔鏡手術で切除できたそうです。
「突然、『がんですよ』と言われてショックでした。でも、『転移がなくて、抗がん剤を使わない』と言われて、助かった、と思った」
デビュー45周年記念曲の発売記念イベントでそう語ったそうです。ステージ2は、大腸の粘膜にできた腫瘍がさらに固有筋層を越えて広がりますが、リンパ節への転移はない状態。転移がないことで、術後に補助的に行われる抗がん剤治療をスキップできたのは、ラッキーです。
2018年の予測値で大腸がんの罹患数は15万2000人で、胃がんを2万3000人ほど上回るトップ。ピロリ菌感染が原因の98%を占める胃がんから1位を奪うのは象徴的。大腸がんの原因は、肉食や肥満、運動不足など生活習慣が原因の「欧米型」のがんの代表だからです。
そんな大腸がんは、多くが良性のポリープから発生。そのうちの一部ががん化します。大きくなるほど発がんリスクがアップ。直径1センチ以上では3割弱ががん化するといわれます。
ポリープは胃にもできますが、こちらは怖くありません。胃のポリープの多くを占める「胃底腺ポリープ」は、ピロリ菌感染のない胃にできるもので、“胃がんにならないサイン”とさえいわれているゆえんです。大腸のポリープは切除しますが、胃底腺ポリープは経過観察で構いません。
■米国では死亡者数が半減
話を大腸がんに戻します。山本さんは腸閉塞による痛みが受診のキッカケですが、ポリープのうちに切除しておくのが無難です。がん検診や企業健診などでは、採取する便潜血検査が行われています。
2回分の便をこすり取る古典的な検査ですが、効果は高く、進行大腸がんの90%、早期大腸がんの50%、大腸ポリープの30%が発見されるといいます。その結果、大腸がんの死亡率を約60%、大腸がんになるリスクを46~80%下げるのです。
さらに進んだ予防法もあります。「全大腸内視鏡検査」で、胃カメラの大腸版です。胃カメラと同じように肛門から内視鏡を挿入して、大腸をくまなくチェック。早期発見するだけでなく、ポリープなどの病変があればその場で切除。病理検査に回すことができるのです。
いち早く取り入れた米国では大腸がん患者が激減し、大腸がんの死亡率は40年で半減。人口が日本の2倍を超えるのに、死亡者数は男女とも日本人を下回っています。米国の予防医学の勝利といえるでしょう。その検査は10年に1回。自費で大腸内視鏡検査を受ける人は、40歳、50歳など節目の年に受けるといいでしょう。毎年の検診は便潜血検査をしっかり受けることが大切です。