前立腺がんは医師の言いなりで手術を受けたら後悔する

誤った思い込みで早まるな
誤った思い込みで早まるな(C)日刊ゲンダイ

 前立腺がんは早期発見なら、「手術」「放射線治療」「ホルモン治療」「何もしないで経過観察」と治療の選択肢が複数ある。しかし約25年、3000人のがん患者の相談に乗るがん難民コーディネーターで、「後悔のない前立腺がん治療」を上梓した藤野邦夫氏は、経験から「医師の言いなりで手術を受けると後悔する」と指摘する。

「日本人には、前立腺がんに対する誤った思い込みが2つあります。1つは『治療を急がなくてはならない』、もう1つは『手術がベスト』。2つの誤った思い込みのために、再発リスクが上昇した人、QOL(生活の質)が著しく下がった人が後を絶ちません」(藤野氏=以下同)

 前立腺がんは、なぜ治療を急がなくていいのか? それは、前立腺がんの進行スピードが非常にゆっくりだからだ。再発がんであっても、骨転移まで平均5年、死に至るまで8年、合計13年かかるといわれている。

 では、手術がベストでない理由は?

「がんの手術では、がん自体にはメスを入れず、余白を残して周りの正常な組織と一緒に切除するのがゴールドスタンダードです。しかし前立腺は恥骨の奥の狭い空間に位置し、周囲には直腸、膀胱、外尿道括約筋など重要な器官がある。これらとともに前立腺がんを摘出することはできません。どんなに慎重に手術をしても、がんの取り残しのリスクがあり、がんが前立腺の被膜外ににじみ出て(被膜外浸潤)いれば、腹腔鏡でも浸潤の完全切除は不可能です」

 前立腺がんは、生検で分かる悪性度の高さや腫瘍マーカーPSAの値から低・中・高リスクに分類されるが、低リスクと言われて手術を受けた患者の25%前後に再発が起こり、高リスクでは50~70%に再発が見られるという報告もあるのだ。

 さらに前立腺は部分切除ができないので、全摘しかない。すると尿漏れや性機能障害(ED)は免れられない。

「“尿漏れは半年か1年でなくなる”“骨盤体操で回復する”と言う医師もいますが、完全な回復はほぼない。生涯、尿漏れが改善せず、うつ状態に陥る人もいます」

 尿漏れやEDという手術の後遺症がある。そればかりか、手術を受けても、低リスクの場合で4人に1人が再発。だから、藤野さんは前立腺がんの手術を勧めない。

 では、どうするか? 低リスクや中リスクA群の場合(囲み参照)、何も治療をしない。そして半年~1年置きに経過観察をし、悪性度を示すグリソンやPSAの数値が上昇してきた時点で最適の治療を行う。

「60~79歳を対象にした海外のデータで、手術でも放射線でも経過観察でも生命予後が変わらないという結果が出ています。そうであればなおさら、手術はすべきではない。私が患者さんに提案するのは、経過観察でグリソンやPSAが上昇した時に、放射線治療を受けること。尿漏れやEDなどもない」

 なお、ここで言う「手術」には、近年話題の「ロボット手術」も含まれる。

 低リスクや中リスクA群ではホルモン療法が医師から勧められることもあるが、藤野氏は手術同様に反対だ。心血管障害のリスクを上げるばかりか、ホルモン療法は進行した前立腺がんか、再発した前立腺がんにのみ有効だからだ。

■前立腺がんのリスク分類

 前立腺がんのリスクは、低・中・高に分けられる。

 一般的に、前立腺がんの悪性度の基準値「グリソン」と、前立腺がんの進行度を示す「PSA」の2つで判定。藤野氏はさらに、治療をより選択しやすくするために、中リスク群を「A」と「B」に、高リスク群を「高リスク」と「超高リスク」に分類。

 低リスク群はPSA10以下でグリソン6以下。中リスク群AはPSA10~20でグリソン6、またはPSA10以下でグリソン7。中リスク群BはPSA10~20でグリソン7。高リスクはPSA20以上でグリソン8以上、超高リスク群は遠隔転移が見られる。

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