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熱に強い納豆菌と弱いナットウキナーゼをおいしく効果的に

納豆の豚肉との天ぷら(左)とたくあんとの和え物
納豆の豚肉との天ぷら(左)とたくあんとの和え物/(C)日刊ゲンダイ
風土の恵みを味わう② 納豆

 知人の医師は「健康でいたかったら大豆を365日食べなさい」と言います。

 良質なタンパク質をはじめ栄養分豊富な大豆を使い、先人が編み出した日本ならではの発酵食品が納豆です。

 蒸した大豆が納豆菌によって発酵する過程で生じるナットウキナーゼという酵素には、血液をサラサラにする働きがあり、心筋梗塞や脳卒中の予防によいとされています。

 脳卒中は就寝時の発汗で血液が濃くなって血栓ができ、起床時に急激に血圧が上昇することに起因するケースが多いそうです。ナットウキナーゼの効果は6~8時間といわれているため、食べるのは朝でなく夜が理想です。

 ナットウキナーゼが加熱に弱い一方で、腸内環境を整える納豆菌は熱に強い性質があります。納豆は熱を加えることによって独特のにおいが飛ぶため、苦手な方にはお勧めの食べ方です。

 今回はナットウキナーゼや納豆菌の特性を考慮して加熱したものと、そうでないものを用意しました。

 生姜とわかめも使った納豆と豚肉の天ぷらは、納豆が苦手という方でも召し上がれます。納豆と豚肉は相性が良いうえに、ボリュームもありますから、ご家庭に人を呼んだときにも使えるメニューです。

 たくあんとの和え物は、お酒のおつまみにもなります。発酵食品同士ですし、納豆は古漬けと和えてもおいしくいただけます。

 同じ食材でも調理法や食べ方を使い分けることで、さまざまな効能、効果が期待できますし、違ったおいしさを味わえるのです。

■豚肉との天ぷら

《材料》 
◎納豆 2パック
◎豚ロース 薄切りを300グラム。1センチ幅に切る
◎にんにくみじん切り 小さじ1
◎生姜みじん切り 大さじ1
◎乾燥わかめ 4分の1カップをハサミで5ミリ大に切る
◎醤油 大さじ1
◎片栗粉 大さじ2
◎薄力粉 大さじ1
◎酒 大さじ2
◎卵 半個分
◎白こしょう 少々
◎揚げ油 適宜
◎レモン 適宜

《作り方》 
 すべての材料をボウルでまぜ合わせる(写真)。スプーンで一口大の大きさにすくったら、中温度に熱した揚げ油の中へ。途中、上下を返し、カリッと揚げる。ペーパータオルに取り、油を切ったら、熱いうちにいただく。お好みでレモンを搾って。冷めてもおいしくいただけるので、お弁当にも。

■たくあんとの和え物   

 納豆2パック、たくあんの粗みじん切り4分の1カップ、生姜のみじん切り小さじ1、オリーブオイル大さじ1をまぜ合わせる。大葉を5枚ほどちぎってあしらう。

▽松田美智子(まつだ・みちこ)女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事」「調味料の効能と料理法」など。

納豆は日本の自然の中で生まれた典型的な風土食(和え物の過程の納豆)
納豆は日本の自然の中で生まれた典型的な風土食(和え物の過程の納豆)/(C)日刊ゲンダイ
タンパク質、アミノ酸、オリゴ糖、善玉腸内細菌…理想的な風土食

 納豆ほど、日本の自然の中で育まれた典型的な風土食と呼べるものも他にはないのではないか。納豆の起源は、すでに平安時代の文書記録にまで遡れるという。蒸した大豆を発酵させたものが納豆。この発酵に使われるのが納豆菌。納豆菌の正体は枯草菌(バチルス)。

 その名の通り、稲わらなどに常在する。稲わらにはもちろん他の雑菌も存在するので、単に大豆が稲わらに触れただけだと、納豆にはならずカビが生えたり腐ったりしてしまう。おそらく昔の誰かが、大豆を稲わらに包んで、稲わらごと蒸して、そのまま放置してしまったのだろう。

 開けてびっくり、たいへんおいしい食品に変身していた。稲わらを加熱すると雑菌のほとんどは死滅する。しかし、枯草菌は胞子をつくり熱に耐える。その結果、枯草菌の強力な酵素によって栄養素が分解され、うま味が開いた納豆ができた。今では、稲わらではなく、純粋に培養された納豆菌がパッケージに塗布されて納豆は量産される。

 納豆には大豆由来の豊富なタンパク質と、その分解産物であるうま味アミノ酸、ビタミン類、腸内の善玉細菌のエサになるオリゴ糖などが含まれ、納豆菌自身も善玉腸内細菌となりうる。こんなに健康に良い風土食もない。ネバネバの糸はポリグルタミン酸。時間がたつと分解され、グルタミン酸となり、うま味が増す。なので、納豆をおいしく食べるコツは、何度もかき回すことではなく、かき回してから少し常温でおいて熟成を進めることである。

▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1959年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。

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