猛暑に気を付けたい病気

【虚血性腸炎】下痢だけでなく重症化すると死に至る場合も

怖いのは熱中症だけでなく、腸も大きなダメージを…
怖いのは熱中症だけでなく、腸も大きなダメージを…(C)日刊ゲンダイ

 猛暑では、体を動かす際にも注意を払いたい。怖いのは熱中症だけではなく、腸も大きなダメージを受けて「虚血性腸炎」を招く危険がある。日本消化器病学会専門医の江田証氏(江田クリニック院長)が言う。

「強度の高い運動を行うと骨格筋への血流が増大します。その分、腸管の血流が減ってしまい、腸が虚血状態になります。腸の細胞は隣り合っている同士が密着して、細菌や未消化のタンパク質などが腸の中に侵入するのをブロックしています。この細胞の密着結合は『タイトジャンクション』と呼ばれています。腸の血流が不足すると、そのタイトジャンクションが障害され、腸内細菌が産生するエンドトキシンという毒素が血流の中に漏れ出す『リーキーガット』と呼ばれる腸の透過性亢進状態を引き起こします。すると、下痢、腹痛、吐き気、下血といった症状が表れるのです。正式には『運動誘発性胃腸症候群(GIS)』と呼ばれ、強度の高い運動を2時間以上行うと起こりやすい。マラソン選手の60~90%は、競技中に下痢や血便などのGISによる胃腸トラブルを起こしているという研究が報告されています」

 たくさん汗をかく夏場は脱水状態になりやすく、全体的な血液の循環量が少なくなる。その状態で強度の高い運動を行うと、余計にGISのリスクが高まるのだ。

 GISのひとつである虚血性腸炎は一般的には軽症なケースが多く、休んで腸管の血流が戻れば回復する。しかし、最悪な場合では死亡につながる例もあるという。

「左わき腹付近にある下行結腸は、腸に酸素や栄養を供給している2本の動脈の境目にあって、もともと血流が少ない部位です。脱水や運動によってさらに下行結腸の血流が不足すると、細胞が壊死して腸管を損傷し、腸の中で潰瘍を起こすケースがあるのです。軽症なら入院して絶食すれば回復しますが、壊疽型で腸に深い潰瘍ができて穴が開き、腹膜炎を起こしてそのまま死に至るケースもあります」(江田氏)

 夏に運動するなら、虚血性腸炎などのGISを防ぐことが大切で、そのためには「低FODMAP食」を活用するのが有効だという報告が多い。

 FODMAPとは、「発酵性」があり腸内でガスを産生する「オリゴ糖類」「二糖類」「単糖類」「ポリオール類」のアルファベット表記の頭文字に「AND」を加えて並べたもの。これらの糖質を避けた食事が低FODMAPになる。果物なら、リンゴやスイカは高く、バナナ、イチゴ、ブドウ、レモンなどは低い。野菜はゴボウ、大豆、ネギ、ニンニク、タマネギが高く、トマト、ニンジン、ホウレンソウは低い。飲み物は甘いジュース(果糖ブドウ糖液糖)、牛乳、ウーロン茶が高く、緑茶、紅茶、コーヒーは低FODMAPになる。

「高強度の運動をする際には、運動前と最中に少量の低FODMAPの炭水化物とタンパク質を取ると、ガス産生による腸管内圧上昇とそれに伴う虚血を抑えGISを軽減すると複数の論文で報告されています。高FODMAPであるパン、パスタ、うどんは避け、低FODMAPの米、ソバなどを摂取するのがいいでしょう」(江田氏)

 たかが下痢や腹痛だと甘く考えることなく、予防策をしっかり講じたい。

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