Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

魔夜峰央さんも公表の食道がん 野菜と果物に抑制効果が

野口五郎さん(左)と堀ちえみさん
野口五郎さん(左)と堀ちえみさん(C)日刊ゲンダイ

 食道がんを公表する方が相次いでいます。「パタリロ!」などでおなじみの漫画家・魔夜峰央さん(66)は朝日新聞のインタビューで、今年4月に受けた胃カメラ検査で早期の食道がんが見つかったと語っているほか、タレントの堀ちえみさん(52)は今年4月、口腔がんの闘病中に食道がんも発覚。昨年末には、歌手の野口五郎さん(63)も食道がんの手術から復帰しています。

 食道がんの罹患数は、昨年の予測値で2万2300人。10万人を超える大腸や胃、肺と比べると少ない。それでいてこれだけ報道が続くのは、発症したのが芸能人だから目立つということだけではないでしょう。

 食道がんには、2つのタイプがあって、食道本来の粘膜である扁平上皮から発生する扁平上皮がんが9割。残りの1割は、胸焼けやゲップなどの症状で知られる逆流性食道炎に起因して起こる腺がんです。

 日本では少数派の腺がんは、欧米では食道がんの半数を占めています。わが国でも食生活の欧米化が定着し、肥満の増加もあって、今後、腺がんの増加とともに食道がんが増えるとみられているのです。

 逆流性食道炎になると、胃の粘膜が食道とのつなぎ目を越えて食道側に広がることがあります。食道の粘膜の扁平上皮が、胃の粘膜の円柱上皮に置換されている状態で、バレット食道といいます。欧米の研究では、バレット食道の人は、健康な人に比べて食道がんの発症率が30~125倍も高い。このリスクは、見逃せません。

 2つのタイプのリスク因子は、扁平上皮がんが「喫煙」「飲酒」に加えて、「お酒を飲むと、顔が赤くなる体質」で、腺がんが「逆流性食道炎」「バレット食道」「肥満」「喫煙」です。

 お酒の飲み過ぎは逆流性食道炎を助長しますから、「飲酒」はどちらのタイプにも重なります。特に、飲んで顔が赤くなる人は、要注意といえるでしょう。

 国立がん研究センターの多目的コホート研究によると、野菜と果物をたくさん食べるグループは、あまり食べないグループに比べて、食道がんのリスクがほぼ半減。野菜の種類別では、キャベツや大根、小松菜などを含むアブラナ科の野菜がよいそうです。

 喫煙と飲酒の習慣別に調べると、野菜と果物の食道がん抑制効果は、「喫煙と大量飲酒のハイリスクグループ」ほど大きく、危険度は約7・7倍(野菜と果物の摂取量が「低グループ」と「中グループ」)から2・9倍(野菜の摂取量が「高グループ」)へと大幅に低下しています。たばこを吸ったり、たくさんお酒を飲んだりする人は、野菜と果物をたくさん食べるといいでしょう。

 バレット食道は、一度発症すると治りません。逆流性食道炎の人は、胃酸を抑える薬で治療を受けながら、1年に1回、胃カメラ検査を受けること。このところ早期の食道がんがよく見つかるのは、胃カメラ検査の普及も大きい。胃の検査で受けるときも、「咽頭と食道もよく診てください」とお願いしましょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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