後悔しない認知症

高島忠夫さんの家族が知らずに悔やんだ介護サービス

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「なぜもっと優しくしてあげなかったのか」

 認知症の親を見送った子どものほとんどがそんな思いに駆られるようだ。施設に親を入居させた子どもでも、最期まで在宅介護をした子どもでも、多かれ少なかれそんな後悔の念を抱く。とりわけ在宅介護で親を見送った子どもの多くは「もっと話を聞いてあげれば」「なぜあんなに感情的になったのか」などと、自分を責めてしまうケースが少なくない。

 高齢の親の認知症が進行すれば普通のコミュニケーションが不可能になるばかりか、歩行の介助をしたり、排泄の世話をしたりで、子どもの負担は極めて大きくなる。現役世代の子どもの場合、どんな職種であれ、介護による仕事への影響も少なくはない。会社勤めなら、出社時間を遅らせたり、早退を余儀なくされたりすることもあるだろう。

 経済的な負担ものしかかる。心身ともに疲れ果てた子どもが親に対して多少冷静さを欠いた言動に出たとしても、一方的に責めることはできない。いずれにせよ、親にとっても、子どもにとっても不幸なことだ。

 それを回避するために欠かせないのが「介護保険制度」の利用だ。いまから約20年前に制定された制度だが、残念なことに、この制度でフォローされるサービスの詳細を知らない人が少なくない。

 ケアマネジャーの指導、ヘルパーの訪問介護、デイサービスなどを受けるためには、市区町村の窓口で申請を行い、介護認定調査員の調査を受けた上でかかりつけ医の意見書をもらって要介護認定をもらうことが必要だ。受給している年金の額などによって異なるが、1~3割の自己負担額で各種のサービスが受けられる。

 デイサービスの場合、要介護認定者を送迎してくれ、施設で数時間預かってもらえる。そこでは食事や入浴のサービス、機能訓練、レクリエーションなどが行われる。また介護ヘルパーによる訪問介護では、地域によってサービスの内容や自己負担額は異なるが、掃除、洗濯、入浴、食事の用意、買い物、散歩などさまざまなサービスが受けられる。こうした介護サービスは子どもにとっては心身の負担を軽減する強い味方になる。

 だが、障害年金、生活保護などと同様、政府、自治体はこうした制度について国民の側に立った積極的な情報発信をしているとは言い難い。

 少し前に俳優の高島忠夫さんが亡くなった。20年ほど前にうつ病を発症、一時期芸能界に復帰したものの、その後パーキンソン病などを患い、老衰で亡くなるまで長く要介護状態だったとされる。だが、妻の寿美花代さん、息子の政宏さん、政伸さんは介護保険制度の存在を知らず、介護費用をすべて自費で賄っていたという。結果、介護費用に備えるために多くの資産を売却したという。

「女性セブン」の取材に政宏さんは、忠夫さんの財産はほとんど残っていないことを告白した上でこう答えている。

「主治医に相談したら東京・世田谷区のケアマネジャーさんを紹介されて。『うちの父も介護保険を使えるんですか?』と聞いたら、『ええ、使えます』と言われました。〈中略〉階段の手すりの設置から介護ベッドやトイレの手すりまで、こんなものにも保険サービスが使えるのかと驚きました」(同誌8月22・29日号)

 さらに「政宏は何度も『介護保険さえ、最初から知っていれば』と繰り返した」と同誌は報じている。認知症の親のためにも、自身のためにも、子どもは介護保険制度を正しく理解し積極的に利用すべきだ。

和田秀樹

和田秀樹

1960年大阪生まれ。精神科医。国際医療福祉大学心理学科教授。医師、評論家としてのテレビ出演、著作も多い。最新刊「先生! 親がボケたみたいなんですけど…… 」(祥伝社)が大きな話題となっている。

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