上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

「ヨガ」には心臓にとってプラスになる要素が詰まっている

順天堂大学医学部心臓血管外科の天野篤教授
順天堂大学医学部心臓血管外科の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 ヨガは心臓や血管の健康増進に効果がある――。米国心臓協会の報告です。

 ヨガは古代インドが発祥の修行法で、現在は健康や美容を目的としたエクササイズとして広まっています。さまざまな種類があり、ポーズや呼吸法も数多くあります。かねて多くの健康効果が報告されていて、米国心臓協会は「研究では血圧や脂質の値を下げ、ストレスの軽減、肥満度の改善など心血管の健康増進に有効性が示されている」としています。

 また、「ヨガを実践していた人は、まったく運動をしなかった人に比べて、総コレステロール値や中性脂肪値が低く、血圧も低下した」という臨床研究も報告されています。いずれも心臓疾患のリスク因子ですから、やはり心臓の健康維持に貢献するといえるでしょう。

 心臓を強くするには、負荷をかけ過ぎない程度の有酸素運動を続けることが大切です。負荷をかけ過ぎない運動というのは、「心拍数が130を超えない」程度が目安になります。体中に血液を送り出して循環させている心臓は、運動すると筋肉に血液を送るために普段よりも活発に働きます。心臓も筋肉なので、運動によって鍛えられるのです。

 ヨガは、ある程度長い時間にわたって軽めの負荷を体にかける有酸素運動ですから、心臓を鍛えるために効果的な「適度な運動」といえるのです。

 また、ヨガの深い呼吸法によるリラクセーション効果も心臓にとってはプラスに働きます。副交感神経が活性化されるからです。

 人間の自律神経は、交感神経と副交感神経のバランスで成り立っています。交感神経は活動時や緊張状態で優位になり、副交感神経はリラックスしているときに優位になります。交感神経が優位な状態ではアドレナリンが分泌されることから心拍数増加や血管収縮による血圧上昇が引き起こされるので、心臓の負担が増えて動脈硬化が促進されてしまいます。一方、副交感神経が優位になると、心拍数が抑えられ、血管が拡張して血圧も低下します。心臓の負担が減って、疲弊を回復させるのです。

■和温療法と類似している点もある

 また、数多くの種類があるヨガの中でも、「ホットヨガ」は心臓の健康に役立つと考えられます。ホットヨガは、室温39度前後、湿度60%前後に保たれた環境で行われます。これは、日本で高度先進医療として承認されている「和温療法」と同じような効果が見込めるといえます。

 和温療法は、鹿児島大学医学部元教授で和温療法研究所所長の鄭忠和先生が、重症心不全患者の新しい治療法として確立したものです。室温を60度に設定した遠赤外線乾式サウナ治療室で全身を15分間温め、その後、さらに安楽イスなどに座った状態で30分間保温し、最後に発汗量に見合った水分を補給します。

 体を温めることで全身の血管が広がり、心臓の負荷が軽減されて血液循環が促進されます。心不全や狭心症の治療に使われている血管拡張剤と同じような効果が見込めるのです。

 また、血管内皮機能の改善と血管新生作用があり、動脈硬化を抑制します。余命半年と告げられた重症心不全の患者さんが和温療法を続け、20年以上も元気に暮らしているという例も報告されています。

 もちろん、ホットヨガは医学的な治療ではないので、悪くなった心機能を回復させるという確かなエビデンスがあるわけではありません。保温による血管の拡張、ヨガによる心臓への適度な負荷、リラクセーション効果によって、あくまでも「心臓の健康増進に役立つ」くらいの認識にとどめてください。

 ホットヨガも含め、心臓にトラブルを抱えている人がヨガを実践したい場合、担当医から許可されないケースもありますから、指定医療機関での心臓リハビリを受けたうえでヨガの運動量を点検してもらうことをお勧めします。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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