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こんにゃくは徹底的に水分を抜く下処理で有害物質も排出

雷こんにゃく(左)と、こんにゃくと鶏ムネ肉のさっと炒め
雷こんにゃく(左)と、こんにゃくと鶏ムネ肉のさっと炒め(C)日刊ゲンダイ
風土の恵みを味わう<4>こんにゃく

 こんにゃくは、昔から「おなかの砂おろし」とか、「胃のほうき」などと言われてきました。

 原料のコンニャクイモに含まれる食物繊維のコンニャクマンナンが有害物質を吸収、体外に排出してくれるからです。

 満腹感がある割にカロリーがゼロなので、ダイエットにも最適の風土食です。

 そんなこんにゃくをおいしくプリプリに、なおかつ、塩分を控えめに仕上げるために大切なのが下処理です。

 調味料をたくさん使っているのに、なぜ、味が染みないのかという声をよく耳にします。理由は下茹での時間が短いからです。こんにゃくは97%が水分。これだけ水分がありますと、いくら調味料を使っても味は入りません。なので、こんにゃく1枚につき小さじ1杯分の塩をよくすり込んだうえで、水から20分、茹でます。これによって水分とともに、こんにゃくを固めている水酸化カルシウムや炭酸ナトリウムが除去できるので、特有の臭みも消えます。

 これで終わりではありません。茹であがったら、さっと水洗い、水気を切ったうえで、こんにゃくがキュッキュッと鳴くまでから煎りします。徹底的に水分を抜くことによって、少ない調味料でも味が染みます。結果として塩分を控えることができるのです。

 この下処理はわたしの祖母がやっていた方法でもあります。こういった先人の知恵を伝承していくことが大切だと思うのです。

 今回は下処理をしたうえで、甘辛味の雷こんにゃくと鶏ムネ肉との炒め物にしました。雷こんにゃくは、から煎りするときに大きな音がすることから、この名前が付いたともいわれています。

■雷こんにゃく

《材料》
◎黒こんにゃく 1枚をスプーンで一口大にちぎる
◎塩 小さじ1
◎ごま油 大さじ1
◎鷹の爪 3~4本を小口切りに
◎酒 大さじ2
◎みりん 大さじ1
◎醤油 大さじ1と2分の1
◎白ごま 小さじ1

《作り方》
(1)ちぎったこんにゃくに塩をよくすり込み、中鍋で約20分間、中火で茹でる。ザルにあげて水分を切ったら鍋に戻し、から煎りして、さらに水分を抜く(写真)。
(2)鍋にごま油と鷹の爪を入れて炒め、酒、みりんを加える。汁気がなくなるまで炒めたら、味をみて醤油を鍋肌から回しかけてなじませる。
(3)器に盛り、白ごまをあしらう。

■鶏ムネ肉とのさっと炒め

 鶏ムネ肉1枚分の皮と余分な脂を除き、そぎ切りに。片栗粉小さじ1、塩小さじ1と2分の1、ごま油大さじ1、ショウガの搾り汁小さじ1を合わせたものに15分漬ける。黒こんにゃく1枚を5ミリ幅の三角の薄切りにして塩をすり込み、下茹で。さらに煎る。ごま油を足し、鶏肉を合わせて炒めたら、豆味噌大さじ1と2分の1、みりん大さじ1、酒大さじ2、醤油小さじ1を合わせたものを加え、さらに炒める。万能ネギ10本を長さ3センチに切りそろえ、さっと合わせて火を切る。

▽松田美智子(まつだ・みちこ)女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事 」「調味料の効能と料理法」など。

水分を切ったら、から煎りしてさらに水分を抜く
水分を切ったら、から煎りしてさらに水分を抜く(C)日刊ゲンダイ
格好のダイエット食に入っている黒いツブツブの正体

 こんにゃくの中に入っている黒いツブツブは一体何でしょう? この質問は、私も時々出演しているNHKの人気番組「チコちゃんに叱られる!」で出題され、誰も答えられず、チコちゃんに「ボーっと生きてんじゃねーよ!」とどやされることになったのだが、答えは、意外なことに「ひじき」である。

 こんにゃくになぜ、ひじきが入っているのか。それを知るためには、そもそもこんにゃくの製法をおさらいする必要がある。こんにゃくはコンニャクイモ(というサトイモの仲間)の地下茎に含まれるコンニャクマンナンという多糖類から作られる。コンニャクイモの原産国はインドから東南アジアの地域。読んで字のごとく糖をたくさん含んでいるのだが、ジャガイモやサツマイモに含まれる多糖類(デンプン)とは違って、人間の消化酵素で分解することができない。だから栄養源としては価値がない。

 昔人はそれでも何かの足しになると考えたのだろうか。あるいは独特のプリプリした食感が面白いと感じたのか、アジア圏の風土食となって日本にも伝わった。古くは飛鳥時代に記録があり、鎌倉時代には食材として普及し、精進料理に用いられるようになった。ほぼゼロカロリー、かつ、腹の中に入ると水を吸って膨張するので、満腹感をもたらすことが奏功し、現代では格好のダイエット食品としてもてはやされるようになった。昔は、コンニャクイモを皮ごとじかにすりおろして製造されていたため、皮の断片が混じって独特の風合いを持っていた。精製した粉は長持ちするので、後に、粉から作るコンニャク製法が普及したが、その際、彩りづけとしてひじきや海藻を入れる習慣ができたという。これでいいですよね、チコちゃん。

▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。

※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。

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