進化する糖尿病治療法

糖尿病でがんのリスクが増大…進行を抑える治療薬も登場

危険因子が共通するものも…
危険因子が共通するものも…(C)日刊ゲンダイ

 糖尿病ががんのリスクを上げる――。こう言うと、驚かれる方もいるかもしれません。しかし、糖尿病を専門に診ている医師の間では、広く知られていることです。

 糖尿病とがんの関連について、2010年に米国糖尿病学会と米国がん学会がコンセンサスリポートを発表しました。その中では肝臓がん、膵臓がん、子宮内膜がん、大腸がん、乳がん、膀胱がんなどのリスク上昇に糖尿病(主に2型糖尿病)が関連していると指摘しています。また、「健康的な食事、運動、体重コントロールは2型糖尿病を改善するとともに、いくつかのがんのリスクを減少し、予後を改善する」「糖尿病患者は適切にがんのスクリーニングを受診するように医療者は推奨すべきである」などについても触れています。

 これを受けて、日本でも11~13年、5回にわたって、糖尿病とがんとの関連について詳細に調査研究する委員会が開催されました。

 日本での最大規模の研究によると、糖尿病と診断されたことのある日本人において、何らかのがんを発症するリスクが男性では1・27倍、女性では1・21倍。

■危険因子が共通するものも

 がんの種類別では、男性では胃がん、大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、腎臓がんのリスク上昇と糖尿病が関係しており、女性では胃がん、肝臓がんのリスク上昇と関連していました。子宮内膜がんと卵巣がんは、統計学的には有意ではなかったものの、リスク上昇と関連している傾向がありました。

 もちろん、留意点もあります。それは、「糖尿病とがんの危険因子には共通するものがある」「糖尿病患者は検査を受ける機会が多いため、がんの発見率が上昇している可能性もある」「膵臓がんのように、がん発症によって糖尿病を発症しているものもある」など。

 しかし、糖尿病を抱えている方は、予備群も含めて、がんと関連があることを意識しておくべきでしょう。

 では、なぜ糖尿病はがんのリスクを上げるのでしょうか? いくつかの理由が想定されています。

 たとえば、肥満になることで、血管内の傷を修復したり血管を拡張する働きがある「アディポネクチン」の分泌量が落ち、インスリンが正常に働かなくなる。すると、血液中のインスリンが通常よりも多い状態になり、それはやがて多くのがん細胞の増殖に対して重要な役割を果たすインスリン様増殖因子―1の活性を上げる……。

 糖尿病の治療薬には、がんを抑制する効果が期待されているものがあります。

 そのひとつが、メトホルミン。世界中の研究機関の大規模臨床試験などで確認されており、メカニズムの解明も進んでいます。

 さらに14年、世界的糖尿病雑誌「Diabetes」で、新しいタイプの糖尿病治療薬「GLP―1受容体作動薬」が前立腺がんの進行を抑えるのに役立つ可能性があると発表されました。

 GLP―1受容体作動薬は、①インスリンを分泌させて血糖値を抑える②血糖値を上げるホルモンの分泌を抑制する③膵臓のβ細胞を増殖する④摂取した食べ物の胃からの排出を遅らせる⑤食欲を抑える⑥脳神経の保護をする――などさまざまな作用があります。

 さらに、マウスを使った6週間の動物実験で、GLP―1受容体作動薬を使ったマウスの前立腺がんは、使わなかったマウスに比べて、がんの増大が抑制されるという結果が出たのです。

 前立腺のがん細胞にGLP―1受容体が多いほどがん増殖抑制効果が高い。それは、GLP―1受容体作動薬が、がん細胞を増殖させる物質の働きを抑制すると考えられています。

 GLP―1受容体作動薬のがんの抑制効果については、前立腺以外にも、乳がん、大腸がんで研究が進んでいます。

 とはいえ、現在、糖尿病を抱えている方は、「がん予防のために糖尿病治療薬を飲む」というより、「糖尿病はがんと“も”関連している。だから、糖尿病の予防に努めるべきだし、適切な治療を受ける」と考えるべき。

 もちろん、肥満解消、禁煙、規則正しい食事、適切な運動、適切な睡眠、ストレス解消なども必須です。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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