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木綿豆腐の2.5倍のカルシウム 3倍の鉄分を同じ風土食の梅ソースで

「カリカリ焼き夏の香味野菜のせ」(下)と「しらすとの炊き込みご飯」
「カリカリ焼き夏の香味野菜のせ」(下)と「しらすとの炊き込みご飯」(C)日刊ゲンダイ
風土の恵みを味わう(5)油揚げ

 油揚げは薄く切った豆腐に圧をかけて水分を抜き、ごま油や菜種油などで揚げたものです。

 最初は110度程度の低温で揚げ、次に200度くらいの高温で揚げると大きく膨らみます。

 豆腐に比べると脂質が多くなりますが、大豆由来の成分はほとんど変わりません。血管疾患のリスクを軽減する植物性タンパク質やレシチン、骨や歯のもとになるカルシウムなどが豊富で、栄養満点の風土食です。

 カルシウムは木綿豆腐の約2・5倍、赤血球をつくるうえで必要な鉄分は約3倍もあります。

 油揚げの利点は冷凍保存が可能なことです。味噌汁、煮物、いなり寿司、おでんなどさまざまな料理に使えるうえ、冷凍したまま調理できますから、常備しておくと便利です。

 今回は魚焼きグリルで香ばしく焼き、夏野菜をタップリとのせ、梅干しの果肉をたたいて作る梅肉ソースでいただきます。

 梅干しも日本の代表的な風土食です。梅の実を塩蔵してから干し上げる保存食で、平安時代中期には薬として珍重された記録も残っているそうです。

 酸味が効いていますので、夏バテ気味の方でも、さっぱりと召し上がれます。

 しらすとの炊き込みご飯では、油揚げが重要な役割を果たします。おいしさを加味するだけでなく、油分が米粒を包んでくれるため、ご飯がパサパサになりにくいのです。ナンプラーで味付けすることによってうま味も増します。

《材料》
◎油揚げ  2枚
◎セロリ 1本分の筋をひき、長さ3センチの短冊薄切り
◎みょうが  1本を縦に薄切り
◎大葉  10枚を千切り
◎梅干し 大1個の果肉をたたく
◎ごま油  大さじ2
◎米酢  大さじ1
◎醤油  大さじ1
◎胡椒  少々

《作り方》
(1)梅干し、ごま油、米酢、醤油、胡椒を合わせてソースを作り、野菜も切っておく。
(2)油揚げを魚焼きグリルやオーブンでカリッと香ばしく焼く。
(3)焼きたての油揚げを一口大に切り、上に野菜をのせ、梅ソースをかけていただく。

■しらすとの炊き込みご飯

 油揚げ2枚を沸騰した湯で茹でて油を抜き、ざるに取って冷ましたら、みじん切りに(プロセッサーを利用するとよい)。米2カップをとぎ、10分水に浸し、15分水切りして土鍋へ。油揚げ、ダシ1と4分の3カップ、酒大さじ3、ナンプラー大さじ2を加え炊く。炊き上がりにしらす干し2分の1カップを加えてむらしたら、しゃもじで切るように合わせて、おむすびにする。

▽松田美智子(まつだ・みちこ)女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事 」「調味料の効能と料理法」など。

油揚げ
油揚げ(C)日刊ゲンダイ
抗酸化成分サポニン、コレステロール低下作用レシチンを含む健康食

 私は、大学、大学院、ポスドク(研究見習)、と独身貧乏生活が長く続いたので、よく自炊をしていた。

 冷凍庫には、細く切った油揚げをジップロックに入れて常備していた。お味噌汁の浮き実に少々、炒めものに少々、といつでもどこでも使えるので、大変重宝した。油揚げはダシや汁の味をよく吸うので、何にでも馴染んだ。実際、油揚げは、きつねうどんにも、いなり寿司にも、おでんの巾着にも利用され、広く食材として使われている。

 油揚げはその名のとおり、薄く切った豆腐を油で揚げたもの。これが庶民の味として普及したのは、江戸時代の半ば、それまで明かりをともすための高級燃料だった油が、大豆や菜種、ごまなどから比較的安価に作れるようになってからのこと(これら油を搾るための植物を油糧種子という)。

 そして各地で、その風土に合わせたご当地油揚げが生まれていった。私は、京都の下宿で学生生活を送っていたので、大ぶりで上品な味の「京揚げ」に親しんだ。新潟には「栃尾揚げ」が、宮城には「三角定義揚げ」が、愛媛には「松山揚げ」が、それぞれ名物としてある。

 豆腐を油で揚げているからその分カロリーはやや増えるが、健康食であることは間違いない。含まれるサポニンには抗酸化成分、レシチンにはコレステロール低下作用、イソフラボンには骨粗しょう症の予防効果があるとされる。

▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。

※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。

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