医師の常套句「様子を見ましょう」の真意

境界型で明暗 初診患者は基準値超えでもすぐに投薬せず

ひとまず生活改善をするのが大切
ひとまず生活改善をするのが大切
糖尿病編(2)

 糖尿病の検査項目のひとつに、空腹時血糖値があります。それが126㎎/デシリットルを超えると、糖尿病と診断されます。しかし正常は110未満で、「110以上126未満」は「境界型」のグレーゾーン。そこが問題で、患者さんによって医師の対応が変わる余地があります。

 前回、空腹時血糖値が正常型の110未満でも、100を超えると、医師は警戒すると説明しました。「境界型、ひいては糖尿病型に移行する恐れがあるな」と生活改善の指導をしつつも、糖尿病の治療を意識し始めます。

 そうやってフォローしながら、より精密なブドウ糖負荷試験などを行って、その基準値をオーバーしたら、糖尿病と診断し、速やかに適切な薬を処方。本格的な薬物治療がスタートするわけです。

 しかし、それができるのは、定期的に受診している患者さん。初めての患者さんが「境界型」でも、果たしてすぐにブドウ糖負荷試験を行うかどうか。

 糖尿病の生活指導は厳しいイメージがあるかもしれませんが、基本はメタボの改善で、腹八分目の食事や適度な運動、野菜の摂取などにより、体重を5~10%減らすことを目標にします。禁煙や節酒も欠かせません。

 境界型の人は、「まだ糖尿病でないから、生活改善はしなくてもいい」と軽く考えがちですが、生活改善にしっかりと取り組んだ人は、そうでない人に比べて、2型糖尿病の発症を最大7割予防できるという報告があるのです。

 そんな研究結果を受けて、初診患者さんが「境界型」なら、「様子を見ましょう」と伝えます。血糖値の推移が分からないため、今が治療の適切なタイミングか判断できず、ひとまず生活改善の大切さを説明し、血糖値がどの程度、改善するかチェックするのです。

 ただし、65歳以上の高齢者は、血糖値のほかにも脂質や血圧、体重といった注意すべき項目が多いのが一般的。

 生活習慣の改善がベターでも、私自身の経験からも、実現するのはなかなか難しいでしょう。

 若い方も含めて初診から何度かの治療で様子を見たら、薬物治療に切り替えます。読者の方は、「糖尿病は血糖値が上がる病気」と思っているかもしれませんが、それは間違いで、ある一定の幅を超えて上がったり、下がったりする病気が正解です。そうすると、薬を飲むと、血糖値が下がり過ぎて低血糖を起こしかねません。

 一般に血糖値が60になると、発汗や動悸、手指の震え、悪寒などの症状が表れ、50になるとめまい、脱力感、視界がぼやけるといった症状に。さらなる低血糖は生死に関わりますから、薬物治療スタート直後や薬の変更直後の異変は、すぐにかかりつけ医に報告してください。

(梅田悦生・赤坂山王クリニック院長)

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