歌って健康になる

声を出せない生活によって失った高音の「ド」を取り戻せた

音楽レクリエーションの様子
音楽レクリエーションの様子(提供写真)

 2万人に近い死者を出した東日本大震災(2011年3月)から8年が過ぎた。現在なお、仮設住宅に住む家族がいるが、カラオケなど音楽の力で入居者たちの健康と、日常生活の活性化を牽引しているケースを紹介しよう。

 福島県二本松市安達運動場に、240戸の仮設住宅があった。ここに「福島県レクリエーション協会」(本部=福島市)が、音楽レクリエーションを導入している。

 50年の歴史を有するこの団体を昨年、「日本音楽健康協会」(東京・五反田)が、毎年実施している「音健アワード」の受賞作品として「音楽レク実証部門」の優秀賞を授与している。

 具体的にどのような活動を展開しているのか。

 福島県レクリエーション協会の常務理事、佐藤喜也氏が言う。

「仮設住宅の部屋を仕切る壁が薄い。声が筒抜けの状態で、そのために、家族の会話が自然と小声になり、少しでも大声を出すと、“静かにしろ”と、注意されてしまう。長年のそうした息苦しい生活の中で、声が出なくなってしまう人もおりました」

 佐藤さんは、大声を出せるような場所を提供したいと、カラオケを提案したという。

 週に1回、2時間のカラオケタイム。平均、20人ぐらいが参加したが、「これが想像以上の効果をもたらしました」。

 まず健康面では4、5年前、カラオケをスタートさせたとき高齢の入居者は高音が出なかった。ドレミファソラシドの音符で、高音の「ド」まで出せない。「シ」で終わっていたという。それが歌を続けることで高音のドまで出るようになった。

「高音を出すことで喉が鍛えられ、息が続くようになり、横隔膜も活発化します。老人に多い肺炎や誤嚥の予防策にもなりました」

 また、千昌夫のヒット曲「北国の春」を合唱するとき、歌詞カードを見せない。見ながら歌うと、老人特有の背中を丸めてしまうからだ。

 背筋をピッと伸ばしたまま歌ってもらうために、ボランティアスタッフが、次に歌う歌詞を読み上げた。

 仮設入居者の大半の老人は、外に出ることなく、1日に30分も歩くことはない。股関節の治療に金属を入れた車椅子の入居者もそうである。

 一日中、狭い部屋に閉じこもり、周囲住民との会話もなく、孤独な生活――。

 ところが次第に、懐かしいカラオケの歌に魅せられて、会場に顔を出し笑顔を見せる人が増えてきた。車椅子の高齢者も4点づえを利用して、外に出てきたという。

 昨年、240戸の仮設住宅が閉鎖され、今年から6棟の復興住宅に替わった。それでも、カラオケ中心の音楽レクリエーションは、この施設のほか5カ所でも実施しているという。

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