患者も知らないAPD

テレビドラマ、会議、電話、飲み会での言葉が聞き取れない

「ミルディス小児科耳鼻科」(東京・北千住)院長の平野浩二氏
「ミルディス小児科耳鼻科」(東京・北千住)院長の平野浩二氏(提供写真)

 聴力に異常はなく、音としては聞こえているのに、言葉として聞き取ることができないというAPD。聴力検査をしても異常は見つからないため、「聞こえているのに聞き取れない APD聴覚情報処理障害がラクになる本」(あさ出版)の著書があるミルディス小児科耳鼻科の平野浩二院長は、次のようなチェックリストを用意して、APDを診察している。

●聞き間違いが多い
●音は聞こえるのに、言葉が聞き取れない
●横や後ろから話し掛けられると聞こえない
●うるさい場所では相手の話が分からなくなる
●電話で相手が何を言っているのか分からない
●話している人の口元を見ないと理解できない
●「ちゃんと聞いているのか」と注意されることが増えた
●複数の人が話していると、何を言っているのか分からない
●画面に字幕がないと意味が理解できない
●仕事でお客さんの注文が聞き取れない


「APDの人が日本にどれくらいいるのか、はっきりとは分からないのですが、恐らく人口の2%、240万人くらいはいてもおかしくないのではないかと考えています」と説明する平野医師。

 大半の人は学生時代にAPDを自覚しておらず、社会人になってから急に困り始めることが多いという。

「特に困るのが、集団での会議や討論と電話です。一対一だと大体聞き取れるのですが、大勢が一気に話すような状態になると、途端に分からなくなる。だから、ガヤガヤした店内で皆が一斉に話す飲み会も苦手だといいますね。電話の場合は相手の顔が見えないことが分からなくなる原因になっている。相手が目の前にいると、唇の動きを読んだりして、何となく理解できるようになる技術がいつの間にか身についているのですが、電話ではそうもいかない。結果、仕事上のトラブルが増え『全然聞こえてないでしょ』と上司に言われて、耳鼻科を受診する人が多いのです」

 大学4年生の真壁詩織さん(22)の場合は、小さい頃から周囲の人より自分は聞き取れていないことに悩んできた。もっとも、真壁さんとは喫茶店でインタビューを行ったが、特に問題なく質疑応答をすることができた。しかし、授業で先生がしゃべっている声などは、途端に分からなくなるのだという。

「テレビも、バラエティーとかドラマは本当に分からないですね。バラエティーはテロップが時々出るけど、ドラマは何を言っているか分からない。同じ理由で日本映画もダメなので、いつも洋画を字幕で見ています」

 平野医師が解説する。

「APDの人に多く見られる特徴として、騒音下で聞き取れなくなる、複数人の会話が聞き取れない、話すスピードが速いと理解できなくなる、電話や無線などが聞き取れない、横や後ろから話されると分からない、といったことがあります。人と並んで歩いているときに横から話されても何を言っているか分からないので、歩いているときには一切しゃべらない、という人も結構いますね」

 聴力に問題はないのに、そのようなさまざまなシーンで言葉が聞き取れないことに長年悩んできたのが、APDの人たちなのだという。

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