上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

見た目の「若返り」が健康長寿に大きくつながる

天野篤氏
天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 今年も8月中旬に4泊6日の日程でベトナムを訪れました。提携を結んでいる国防軍医科大学付属病院から招待され、1件の手術を行いました。

 患者さんは、ベトナムには少ないタイプの僧帽弁閉鎖不全症を患っている71歳の女性だったのですが、手術前に直接お会いしたときに感じたことがあります。その患者さんの見た目が85歳くらいに思えたのです。

 最近、強く感じているのは、外見が年齢より若く見える高齢者は楽しく人生を全うできているケースが多いということです。科学的には正確とはいえないかもしれませんが、経験上そうした傾向が見られるのです。

 海外でも、遺伝的背景が同じ70歳以上の双子の追跡調査から、「実年齢より若く見える人は長生きする傾向にあり、双子の見た目の年齢の差が大きい場合、老けて見える方が早死にする傾向がある」と報告されています。見た目の年齢が若い人ほど寿命と関連がある染色体のテロメアが長いことがわかっていて、見た目が動脈硬化にも関係しているともいわれています。

 ですから、超高齢社会の日本では、「見た目の年齢が若返るような生き方」を目指すべきだと思うのです。そのためには「行動」が大切になってきます。

 いまの日本では、ベトナムで手術した患者さんと同年代の70歳前後の方の多くは実年齢よりも若く見えます。

 もちろんそうでない方もいらっしゃいますが、昔に比べて“見た目が若い人”が増えた印象です。ベトナムをはじめとした諸外国と比べ、日本の高齢者が若く見える一因は「行動」にあると考えられます。

 近年の日本では独居世帯が増えていることもあり、高齢者でも自立が求められます。社会の状況によって自立させられているということは、行動しているということです。生活していくためには、とにかく自分から外に出て歩かなければなりません。すると、知らず知らずのうちに世の中の流行を取り込むことにつながります。ファッションでも食べ物でも書物でも音楽でも映像でも、何年かに1サイクルで動いているものを肌で感じて、自分の中で消化する作業が行われます。

 これを繰り返していると、ある時点で見た目が2~3歳くらい若返ってきます。新しいものを受け入れると気持ちの刺激になります。外を出歩き、コミュニケーションをとり、食べ物を含めた生活習慣を時代に合わせることが若返りにつながり、健康維持にいちばん役立つのです。

 これができている人は、いくつになっても自分が年を取ったということを意識していなかったり、認めていません。これが見た目の若さと元気の源になるのでしょう。

 逆に自分が年を取ったことを受け入れてしまい、行動しなくなって時代から取り残された時点で老化が始まります。

「青春とは人生のある期間を指すのでなく、心の持ち方をいう」

「年を重ねただけで人は老いない。理想を失うときはじめて老いる」

 まさに、アメリカの詩人サムエル・ウルマンの「青春の詩」の言葉がいまになって蘇るのです。

 ファンタジー映画でも、何百年間も生きている魔女が何かのきっかけで老いを受け入れた瞬間、白骨化してボロボロの粉末になって消えてしまうといったシーンをよく目にします。やはり、老化とはそういうものなのです。

 ベトナムで手術した71歳の女性も、自分の老いや病気を受け入れてしまって、行動することもなくなり、ヨボヨボな状態になっていました。手術すればしっかり治ることを伝えましたが、それでも半信半疑な様子でした。もちろん、手術は無事に成功しました。これから、好きだという旅行にもひとりで行けるようになりますし、若返ってくれることを期待しています。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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