患者も知らないAPD

同じ職種でも職場が変わったら聞き取れなくなることも

写真はイメージ
写真はイメージ

 大学1年生のときにAPD(聴覚情報処理障害)と診断された真壁詩織さん(22)は、子供の頃から自分が周囲の人より話が聞き取れていないことに違和感を覚えていたという。

「とはいえ、子供の頃は友達付き合いにそんなに苦労したことはなかったんです。でも、大人になってからその頃の友達に聞いてみると、私だけがクラス全体の雰囲気に気付いていなかったり、聞き返したりしていたと言っていました。大勢での会話が苦手なので、ずっと自分はコミュニケーション障害だと思っていたんですけど、1対1ならちゃんと話せる。若者グループのコミュニケーションって、言葉の意味よりも雰囲気で会話するところがあるので、余計についていけなかったのかもしれませんね。電話も苦手ですが、最近は友達とのやりとりはLINEが中心なので、楽になりました」

 現在、福祉の仕事をしている横田啓司さん(仮名)も「小学校時代からぼーっとしていて、皆が教室を移動するのに自分だけ気付いていなかったり、天然みたいに言われていました。サラリーマンは無理だと思ったので福祉の仕事に就いたのですが、利用者さんと1対1の話なら大丈夫でも、会議とか、他の職員も含めて3、4人での話とかになるとついていけないことはよくありますね」と話す。

 仕事上で苦労することの多いAPD。特に職場の環境が変わって急に仕事に支障が生じる場合も多いという。APDに関する著書のある「ミルディス小児科耳鼻科」(東京・北千住)の平野浩二院長が説明する。

「同じ仕事をしていても、転職して職場を変えたら急に困ってしまったというケースはよくあります。たとえば、調理師が以前は問題なく働けていたのに、学校給食の職場になったら機械音などが多くてとたんに仕事上必要な会話が聞き取れなくなってしまった。ほかにも、居酒屋のバイトとかコールセンターなど、うるさい中で音声を聞き取ることが必須になる仕事はやはりきついですね。静かな職場だったり、SEなどパソコン上のやりとりが中心な仕事だったらうまくやれている人も多いです。また、うるさい中ではまったくダメかというとそうでもなくて、調理の仕事でも、周りのスタッフがAPDについて理解してくれて、注文をメモに書いてくれるようになったので、問題なく仕事ができるようになったというケースもありました」

 前出の真壁さんは、教師を目指して勉強中。その傍ら、コンビニでのアルバイトもしていて、その際の苦労も多かったとか。

「お客さまの言っていることが分からずに、2回ほど聞き返して、『そんなんで社会でやっていけると思っているの』と言われたこともありました」

 平野院長も、コンビニのアルバイトについてこう話す。

「いまはたばこの銘柄も多すぎるので数字で指示するようになっていますが、APDの人は特に数字や固有名詞がなかなか聞き取れない。その数字が聞き取れなくて困ってしまったという話も、患者さんから聞いたことがあります」

関連記事