後悔しない認知症

実の息子よりも嫁の来訪を喜ぶ親も 多く接することが大事

写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 K美とは長男の嫁の名前だ。知人の母親にとって「大好きな人」とは自分が腹を痛めて産み、育て上げ、60年以上も一緒に暮らした息子ではなく、若いころには嫁姑の争いもしばしばだった彼の妻だったのである。いろいろ葛藤はあったにせよ、最終的に自分に寄り添ってくれたのはお嫁さんだったのだろう。実の母親の反応に、それまでの親への接し方を悔やむとともに、妻への感謝の思いをかみしめたという。

 認知症の進行を遅らせるためには「機嫌よさの種」をできるだけ多く提供することだ。中でも、子ども、孫、親戚はその大きな役割を果たせる存在だ。顔を見ながらコミュニケーションを交わすのがベストだが、手紙や電話での交流も親の機嫌をよくする。

 日本では、2025年に認知症患者は700万人に増えると推計されている。認知症患者の家族を含めれば、膨大な数の人間が認知症と向き合うことになるわけだ。いまは介護する側にある子ども世代の多くがいつかは認知症を発症する。「明日は我が身」なのである。その意味で、認知症の現実を正しく理解し、認知症の高齢者に機嫌よく生きてもらうことを心掛けなければならない。

 また孫世代に身をもってそれを伝えていくことも求められる。彼らは認知症の祖父母に接する親の姿から多くのことを学ぶ。認知症には誰もがなるにせよ、発症を遅らせたり、発症したとしても進行を遅らせる知恵を持つことが大切だ。

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和田秀樹

和田秀樹

1960年大阪生まれ。精神科医。国際医療福祉大学心理学科教授。医師、評論家としてのテレビ出演、著作も多い。最新刊「先生! 親がボケたみたいなんですけど…… 」(祥伝社)が大きな話題となっている。

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