もう一人の看護師は「え!」と叫んで急いで脈を取り、先ほどご家族に「ご臨終です」と告げた担当で新人のA医師にすぐ連絡しました。A医師は医局から慌てて病室に戻ってきました。そして、手首を押さえて脈をみます。
A医師は「ん……?」と漏らした後、足の付け根(鼠径部)に触れて「脈は触れないよ」と口にしました。そして、瞳孔が開いているのを確認し、聴診器で心音は聞こえないことも確かめました。念のため心電図を付けましたが、心臓の波形はありません。心臓は動いていなかったのです。
A医師と看護師は、ご遺体に向かって「お騒がせしてすみませんでした」と一緒に頭を下げて謝りました。その後、ナースステーションに戻ってきたA医師は「ハアーッ」と大きく息を吐き、「オレ、まさか心臓が動いている患者さんに『ご臨終です』と言ってしまったのかと思ってしまったよ。まあ、Mちゃんだもんな……」と漏らしました。後でMさんは看護師長に叱られていました。
がんと向き合い生きていく