「放射線治療」の最前線 今や正常組織にダメージを与えず

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 がんの放射線治療は近年、大きく進歩した。知っておかなければ、“ベストの治療”を受けるチャンスを逃すことになりかねない。

 都内在住の50代の男性は2年前に前立腺がんが分かり、手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使った手術を受けた。医師の「負担が少ない低侵襲な手術」という言葉にすんなり従った形だ。

 術後以降、尿失禁と勃起不全に悩まされている。

「徐々に回復する」と説明を受けたが、急に走ったり立ち上がったりすると漏らしてしまう。勃起に関してはすでに諦めている。

 知人の紹介で別の泌尿器科医に相談すると、「尿失禁や勃起不全は放射線治療の方がリスクが低い。前立腺がんは、手術も放射線も予後は同等だが、病院側としてはロボットは維持費がかかることもあり、放射線でできる前立腺がんにもロボットを勧めるところが多い」と言われた。

 放射線治療で国内最高水準を誇る都立駒込病院放射線診療科の唐澤克之部長は、「似たような話はよく聞く」と言う。

■キーワードは「IMRT」と「定位照射」

 放射線治療は、高精度の機器の登場で、正常組織にダメージを与えず、がんに強力に放射線を照射できるようになった。高精度放射線治療には、「強度変調放射線治療(IMRT)」と「定位放射線治療(以下、定位照射)」がある。

「IMRTは、放射線強度に濃淡をつけられます。たとえば頭頚部がんに放射線を照射する時、脊髄と唾液腺は守りたい。IMRTならそれが可能です。一方、定位放射線は多方面からがん一点に放射線を高い精度で集中させる治療法です」

 IMRTは体中のあらゆる臓器に適用可能。一方、定位照射は肺がんや肝臓がんに用いられるが、今は「動体追尾照射」という方法もあり、大きな役割を果たしている。

「肺や肝臓のがんは、呼吸でがんの位置が大きく移動することがあり、移動量を含めた広い範囲に照射せざるを得ませんでした。しかし、動体追尾照射でがんを追いかけ照射できる。照射範囲を狭くでき、不要なところに放射線を当てない」

 定位照射は、転移したがんに関しても、これまで脳転移、肺転移、肝転移などに用いられてきた。わずかな副作用で良好な効果が得られているが、最近、海外の研究者によって「痛みなどの症状緩和の治療だけよりも、転移したがんに積極的に定位照射を行った方が、生存期間の延長が認められ、今後の治療指針に変更が加わるかもしれない」と発表された。

 さらに放射線治療は、京都大学・本庶佑特別教授が発見し、ノーベル賞を受賞した免疫チェックポイント阻害薬との相性がいい。特に高精度放射線治療と免疫チェックポイント阻害薬の併用で、さらなる治療成績の改善が期待されている。

 都立駒込病院では、放射線治療の60%以上に高精度放射線治療が行われている。対して、全国平均は10%ほど。がんと宣告されたら、高精度放射線治療の可能性を考慮に入れ、力を入れている病院を選ぶか、そういった病院でセカンドオピニオンを受けるべきだろう。

 都立駒込病院は、造血幹細胞移植の拠点病院。白血病の骨髄移植の場合、白血病細胞を死滅させるため、前処置として全身に放射線を照射する。同院では、体に優しく確実に治療をするという目的で、高精度放射線を用いて、骨髄やリンパ組織などの白血病細胞が潜む臓器に重点的に線量投与する一方で、肺や腎臓などそれが不必要な臓器への線量を低減するという臨床試験を開始した。

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