がんと向き合い生きていく

「治療が無駄だったのか」を考えながら10年間も生きてきた

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 Aさんは自分の思いと担当医の受け取り方は違うのだと感じたそうです。それでも、そのままそれ以上のことは話さずに治療を受けてきたといいます。

「私はB病院で仕事をしていたことで、人工呼吸器につながれた患者さんをたくさん見てきました。それぞれの人生を歩まれ、意識はなくなっても手も体も温かい。見舞いに来られたご家族は『よろしくお願いします』と言って帰られます。患者さんが熱を出し、痰がたくさん出る時などは、医師や看護師は痰を吸引しやすいように一生懸命、背中を叩いたりして手当てをしていました。その患者さんたちを見て『無駄な延命』なんて思ったことはありません」

 その一方、Aさんは自分が入院するたびに「無駄な延命はしたくありません」と言い続け、この治療が無駄だったのか、無駄でなかったのかを考えながら、10年間も生きてきたのです。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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