独白 愉快な“病人”たち

入院7回心筋梗塞で手術4回 山岸伸さんは“病気のデパート”

山岸伸さん
山岸伸さん(C)日刊ゲンダイ

 見た目は元気だけど、2週間前に「心筋梗塞」で入院して、2時間半のカテーテル手術を受けてステントを入れたところ。心臓のカテーテル手術は4回目で年内にもう一回予定してる。主治医は「開胸してバイパス手術をしたい」と言うんだけど、「絶対イヤです!」って拒否してるんだよ。

 最初は3年前、狭心症の発作を起こして倒れた。その日は7人組の男性グループの撮影を予定してたんだけど、午前3時ごろに目が覚めて、左胸が妙に熱くてね。朝、迎えの車が来て撮影に向かってた時はやけに息苦しくて、左胸をずっとトントン叩いてた。

 スタジオに着いて撮影に入ろうとしたらクラクラして、少し休んだら気を失った。気がついたら少し吐いてたんで、フラフラしながらすぐにタクシー拾ってかかりつけの東京医科歯科大学病院へ。で、そのまま手術して入院……間一髪で運が良かったね。

■11年前に慢性骨髄性白血病が発覚

 心筋梗塞は白血病の薬の副作用じゃないかな。2008年12月に「慢性骨髄性白血病」と告知を受け、グリベックという分子標的薬を毎日4錠飲み続けてきた。今、3錠に減らして2カ月になるけど、ほかにも20年ぐらい前から「糖尿病予備群」と言われて薬を飲んでいて、白血病と診断されてからはインスリン注射に切り替えた。それに、胃薬だなんだで毎日10錠飲んでる。もう“病気のデパート”なんだよ。

 白血病だとわかったのは、糖尿病で定期的に血液検査を受けてたからで発見が早かった。告知を受ける半年前から目まいの症状はあって、撮影中に揺れを感じて三脚を思わず掴んだりしたこともあった。「地震か?」って周りのスタッフに聞いたら、「揺れてませんよ」と言われ、「疲れてるのかな」なんて思ってたんだよ。

 白血病と診断された後、15日間入院して薬を飲み始めた。そうしたら3日後ぐらいに副作用が出て、病気の自覚が生まれた。「3年ぐらいしかもたないだろう」と思って、退院後は撮影した写真を燃やして処分したり、葬式の準備したり……。

 それが11年ももってるんだから、「もういい」とも思う。治らないんだから。ボクは夢をかなえた。うまいもん食って、ぜいたくして船も買って、キレイな女の子を連れて世界中に行って、たくさん写真を撮って。2人の息子も結婚したしね。

「もういい」っていうのは、グリベックの副作用が結構きついんだよ。目まい、吐き気、体全体のむくみ、涙……。目の周りもむくんで涙腺がつぶれて涙が出るから去年、手術をしたけど、やっぱりダメ。

 グリベック4錠ってのは日本人のMAX量で、ストップ(投薬中止療法)の治験を受けたこともある。でも、ボクは「薬をやめられない」という結果だったよ。

 副作用がつらい上、心筋梗塞で、さらに実は「黄色靱帯骨化症」という難病も抱えている。背骨に沿った黄色靱帯の一部が石灰化して、腰の神経を圧迫してる。今は経過観察中で、リスクを冒して手術して取り除いても、車イス生活になる可能性大らしい。

 前立腺もがんの疑いがあるって言われてて、今、1・5カ月に1回、2日間通院して血液検査なんかを続けてるんだけど、血液内科、糖分泌科、循環器科、泌尿器科、眼科……これを全部回る。アシスタントが迎えにきて連れていってくれるからいいけど、もしも一人で11年通院し続けなきゃいけなかったとしたら大変だったよ。入院だって全部で7回してるんだから。

 もちろんお金もかかる。

 グリベックは1錠8000円。1日4錠だとグリベックだけで3万2000円、2割負担で6400円。若い頃から保険にいっぱい入ってたから助かってるけど、今でも保険料だけで月15万円払ってるんだよ。

■仕事で負けたくない…この「思い」が薬になっている

 “病気のデパート”になって、チェーンスモーカーだったたばこはやめた。でも、あとは以前と同じ。酒はもともと強くないのでたしなむ程度だけど、大食いで甘党で今も食う。普通の人の倍は食べてると思うよ。ガマンしたらかえってストレスだよ。

 なるべく病気のことを考えないで、普通に生きたい。それには「写真を撮ってるしかないかなあ」と思う。仕事していれば病気を忘れられるし、仕事で負けたくない、このまま落ちぶれたら納得いかないって気持ちがあるから、意地でも頑張らなきゃ。この「思い」が薬になってるんだね。かなり無理してるけど、無理してでも仕事したほうがいいんだよ。

 女の子だけじゃなく、輝いてる男の顔がテーマの「瞬間の顔」、ばんえい競馬、京都の上賀茂神社や全国の宮司様を撮る。生きる力をもらってるね。宮司様に「山岸さんはこんなに神様と一緒にいるんだから神様がついている。大丈夫」って言われたよ(笑い)。

(聞き手=中野裕子)

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