バイオ企業が国内初の保険的用 遺伝子治療薬は拡大するか

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 治療法のない難病に苦しむ患者に朗報だ。国内初の遺伝子治療薬として保険適用を承認された「コラテジェン」が、9月4日から販売となった。

 大阪大学医学部の森下竜一教授らが開発し、大阪のバイオベンチャー企業のアンジェス(山田英社長)が製造する(販売元は田辺三菱製薬)。

「コラテジェン」は手足の動脈が狭くなったり、閉塞して血行が悪くなり、足のしびれや潰瘍ができる「慢性動脈閉塞症」の患者が対象。症状が悪化すると激痛を伴い下肢の壊死に至ることがある難病だ。患者数は約1000人で、価格は60万360円(4ミリグラム・1.6ミリリットル、1瓶当たり)。

 遺伝子治療は末期がんの患者ら、治療法のない一部の病気に限定して行われている治療だ。遺伝子の傷を修復し、有害な遺伝子の働きを抑えるために、患者の細胞に正常な遺伝子を導入して病気を治療することを目的とする。「コラテジェン」は患者の筋肉に直接投与する遺伝子治療薬だ。

 5月にはノバルティスファーマ(本社スイス)が開発したリンパ腫、白血病を対象にしたがん治療薬「キムリア」も国内で保険適用が承認されている。

 医薬専門誌編集長が最近の遺伝子治療についてこう解説する。

「キムリアは病原体を攻撃するリンパ球の一種T細胞を患者から採取し、遺伝子を改変して体内に戻す『CAR-T細胞療法』です。保険適用でも薬価は3349万円と国内で過去最高の価格です。また遺伝子治療薬では、2歳以下の乳幼児が命取りとなる脊髄性筋萎縮症の治療薬『ゾルゲンスマ』が米国で5月に承認されています。薬価が2億円を超す世界で最も高い治療薬ですが、治療を受けなければ死亡する患者がこの薬1回の投与で治るんです。20歳までこの病気の治療を受けたとして、総医療費はゾルゲンスマの薬代の方が安くなる。日本でも年内に承認、販売予定です」

 さらに、東大と第一三共の共同開発による遺伝子治療薬「G47Δ(デルタ)」についてこう述べる。

「脳腫瘍の患者を対象にした大手製薬会社による国内初の遺伝子治療薬です。現在、厚労省に保険適用の申請を準備中で、早ければ来年にも販売が見込まれています」

 難病に苦しみ、治療法がなくなった患者にとって、遺伝子治療は最後のとりでといえる。遺伝子治療を行っているさくらクリニック(東京都渋谷区)の吉田治院長が解説する。

「遺伝子の解明でいろいろな病気の発症の原因が分かり、まだ一部ですが、遺伝子の投与による有効な治療法が開発されています。今後、がんだけでなく糖尿病、認知症の患者さんを治す遺伝子治療に伴う新薬が次々に生まれ実用化されてくれば、高価な薬代も徐々に安くなります。そしてさまざまな病気に対し、遺伝子治療が確立されていくでしょう」

 遺伝子治療薬への期待は大きい。

(ジャーナリスト・木野活明)

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