膵がんを知る

見つかった時は…手遅れになるまでわからない4つの理由

痛みの箇所も膵がん特有のものではなく分かりづらい
痛みの箇所も膵がん特有のものではなく分かりづらい(C)日刊ゲンダイ

 がんは治る病気になりつつあります。「がんの進行度別にみた5年生存率」(全国がん成人病センター協議会の生存率共同調査=2017年6月集計)によると、がんの種類によって差はあるものの、がん全体ではステージ(病期)Ⅰで9割以上、Ⅱ期では8割以上、Ⅲ期でも5割以上が助かるようになっています。

 ところがいまだに告知されたら「もうおしまいだ」と多くの人から思われているのが膵がんです。見つかったときにはすでに手術ができないケースが多く、診断から5年後に生きている確率は5%以下とダントツに低い。しかも近年は膵がんと診断された人数(罹患者数)と死亡者数は共に急増しており、14年では膵がんの罹患者数が約3・6万人に対して17年の膵がん死亡者数は約3・4万人と膵がんが見つかった人と同数の人が毎年亡くなっているのです。

 膵がんが見つかりにくい理由は主に4つあります。1つは膵臓が体の奥にあって通常の検査では見つけにくいからです。

 膵臓は胃の背中側にある長さ約15~18センチ、幅3~5センチのソラマメのような形をした臓器です。膵頭部、膵体部、膵尾部の3つに分けられます。その働きは①食べ物の消化を促し、胃液で酸性になった食べ物を中和する膵液を分泌して運ぶ②血糖値を下げるインスリンや逆に血糖値を上げるグルカゴン、腸内の水分やミネラル量を調節する血管作動性腸管ペプチドなどを分泌し全身のバランスを保つことです。

 膵臓には消化液を運ぶ膵管が張り巡らされています。膵がんの9割以上はこの膵管の細胞にできますが、膵がんが疑われたときに最初に行われる腹部超音波検査はものによっては、胃や腸の中にあるガスや肥満の影響から観察しづらいのです。ですから私が外来でよく言うのですが、腹部超音波検査で「膵臓に異常なし」と結果が来ても安心はできないことをぜひ知っておいていただきたいのです。

 2つ目は胃や大腸といった他の消化器と違って筋肉層(固有筋層)がないためにいったんがん細胞が増殖を始めると周囲の臓器に浸潤しやすいことです。膵臓は十二指腸や脾臓、胃などに接しているほか、膵臓周囲には肝臓や消化管などにかかわる腹腔動脈や上腸間膜動脈、上腸間膜静脈、門脈などの重要な血管が集まっているからです。

 3つ目は自覚症状が乏しいことです。膵がんは初期症状がほとんどなく、進行すると腰や背中の痛みや腹痛、食欲不振、吐き気、腹部膨満感、黄疸などのほかに糖尿病の人は血糖コントロールが急激に悪化するといわれています。しかし、これらの症状は膵がん特有なものでなく、必ずしも表れるわけでもないことがわかっています。

 4つ目は血液検査でがんを発見するための目印となる有力な腫瘍マーカーがないことです。現在は「CEA」「CA19―9」「DUPAN―2」などが採用されていますが、膵がん特有なものではなく、治療効果や再発の目安に役立つことはあっても膵がんを見つけるために用いるのは難しい面があります。

(国際医療福祉大学病院内科学・一石英一郎教授)

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