その言葉だけで、Nさんは急に足が軽くなった気がしました。もう治療法はないと諦めかけていたのが、「まだ治療できる」「止血できる」というのです。
すぐにCT検査が行われ、放射線を当てる部位のシミュレーション(治療範囲の計画)をしてくれて、その日のうちに1回目の治療が開始されました。
新たな治療を受けた後の帰り道、Nさんは一人でしっかりと歩き、娘さんには「もう私一人でバスで病院に通って、あと6回治療を受けるよ」と伝えました。まだ方法があって、治療が始まった。希望が、元気が出てきたのです。
完全にがんをなくせる治療ではなくても、「治療法がある」という事実は患者にとってとても大切です。「治療法はなくなりました。緩和しかありません」――。医師から、そう淡々と告げられる患者がいます。そう言われた患者は、たとえどんなにつらくても、「分かりました」と平気そうに答えるしかないのです。医師には、「治療法がない」と言われる患者の心のつらさを思いやって欲しい。そう思います。
がんと向き合い生きていく