膵がんを知る

科学的根拠にもとづいた発症リスクを上げる6つの要因<1>

肥満も膵がんのリスク要因
肥満も膵がんのリスク要因(C)日刊ゲンダイ

 膵がんは治りにくいことが知られていますが、なぜ発症するのかは明確にはわかっていません。

 ただ、さまざまな疫学データから「膵癌診療ガイドライン2019年版」は科学的根拠のあるものとして、6つのリスク要因を挙げています。

 そのひとつが「親から子へ受け継がれるがんになりやすい体質」による膵がんです。

 その傾向が特に強い膵がんを家族性膵がんといいます。

 膵がん患者さん全体の3~8.7%を占めるとされ、近親者に膵がん患者さんが多いほど膵がんの発症率が高いといわれています。

 例えば親子、きょうだいを意味する「第一度近親者」に膵がんの患者さんがいた場合はそうでない人の4.5倍、2人いた場合は6.4倍、3人以上だと32倍で、生涯の膵がん発生率もそれぞれ6%、8~12%、40%と高率です。

 第一度近親者に2人以上の膵がん患者さんがいる場合は特に膵がんの発症リスクが高いため、家族性膵がん家系といわれます。第一度近親者の中に50歳未満の発症者がいた場合は膵がんの発症リスクはさらに高くなり、通常の人に比べて9.31倍増加することが報告されています。

 また、膵がんの患者さんの近親者には胃がん、卵巣がん、大腸がん、肝臓がん、乳がん、肺がんなど膵がん以外のがん患者さんが多いのも特徴です。

 2つ目が特定の原因遺伝子により家庭内で膵がんが多発する遺伝性膵がん症候群の人たちです。遺伝性膵炎のほかに遺伝性乳がん卵巣がん症候群、家族性大腸腺腫ポリポーシスなどがこれに当たります。

 2世代以上にわたり複数の膵炎患者がいて胆石やアルコールが原因でない若年層が発症した場合を遺伝性膵炎といい、そういう人の膵がんリスクは通常の53~87倍も高く、喫煙歴があると膵がん発生の平均年齢が40代になるなど、リスクはさらに高まることがわかっています。

 生活習慣病による膵がんの発症リスクの高さも見逃せません。

 2型糖尿病の人の膵がん発症リスクは1.94倍です。興味深いのは糖尿病発症直後がもっとも膵がんの発症リスクが高くなっていることです。糖尿病発症から1年未満で5.38倍、1~4年で1.95倍、5~9年で1.49倍、10年以上で1.47倍となっています。

 私は恐らくこれは、膵がんの発症を血糖値の急激な悪化で知る人が多いからではないか、と考えています。

 肥満も膵がんのリスク要因のひとつで、男性はBMI(体格指数)が35以上で1.49倍、女性は40以上で2.76倍、膵がんの発症リスクが高くなるとしています。興味深いのは若い頃に肥満の男性は膵がんリスクが高いとされていることです。20代にBMI30以上の男性はそうでない人に比べて3.5倍高いことが報告されています。

(国際医療福祉大学病院内科学・一石英一郎教授)

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