Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

がん治療と仕事の両立「難しい」が6割 “手術偏重”の実態が

悩まなくても解決できる
悩まなくても解決できる(C)日刊ゲンダイ

 がんになると、仕事と治療の両立が難しい。そう思われている方は少なくないでしょう。がん対策に関する内閣府の世論調査によると、がんの治療を受けながら働き続けるのは難しいと回答した人が57%に上ります。3年前の調査より、7ポイント下がったものの、依然として高い水準でしょう。

 調査は、がんの治療や検査のため2週間に1回程度通院の必要があるとして、働き続けられるかどうか質問。「そう思わない」「どちらかといえばそう思わない」が57%を占めています。

 一番の理由が「体力的に困難」(24%)でしたが、「代わりに仕事をする人がいない、いても頼みにくい」(21%)、「職場が休むことを許してくれるか分からない」(19%)と職場との調整の難しさもネックになっているようです。

 職場調整を困難にさせる要因として、診断後の“手術第一主義”が影響している可能性は大いにあるでしょう。東大病院は昨年6月、バリアン・メディカル・システムズと共同で「放射線治療とセカンドオピニオンに関する意識調査」を実施。対象は、がんの診断を受け、診断時期を覚えている1032人です。

 その中で、診断時にどんな治療を推奨されたかを複数回答で聞いたところ、手術が86%と圧倒的で、抗がん剤は30%、放射線は22%と続きます。実際に取り組んだ治療の割合も同様で、手術は81%で、抗がん剤30%、放射線21%でした。がんの種類を問わず、9割が手術を推奨され、患者さんはそのまま治療を受けているのが現状です。

 別の質問で医師の説明の際に知りたいことと医師から説明を受けたことについて聞いたところ、「複数の治療法を知りたい」は7割に上りましたが、実際医師に説明を受けたのは4割にとどまっています。

■通院の放射線ならスムーズ

 がんの3大治療のうち根治を期待できるのは、手術と放射線ですが、手術偏重の実態が垣間見えるでしょう。

 手術と放射線の治療成績は同等ですが、一番の違いは肉体的負担の差です。たとえば早期肺がんは、手術だと7~10日の入院が必要ですが、ピンポイントの定位放射線治療なら5日の外来で可能。最新の粒子線治療なら、わずか1回で済みます。

 前立腺がんで手術と放射線の再発率を比較すると、放射線の方が再発率が低い。肉体的な負担が少ない上、再発率も少ないのです。前立腺がんも定位放射線治療なら、照射回数はわずか5回。

 通院で照射するときにかかる時間は、着替えなどを含めて30分ほど。入院と比べて、仕事との両立はしやすいはずです。すべてのがんの5年生存率は6割で、高齢化によって働き盛りに発症しやすい。仕事との両立を考えると、放射線治療が有利なことを頭に入れておいてください。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

関連記事