進化する糖尿病治療法

「ゴルフ」「温泉」「ビール」の3点セットが脳卒中を招く理由

(写真はイメージ)
(写真はイメージ)

 ゴルフのベストシーズンは、気候のいい春と秋。週末に予定している人もいるのではないでしょうか? 

 Aさんも、3年ほど前まではゴルフを頻繁に楽しんでいました。春、秋にはそれこそ毎週末、ゴルフ場に行っていたそうです。しかし、48歳の時、プレー中に脳卒中を起こして以来、ゴルフから遠ざかっています。

 ゴルフの前日、Aさんは夜遅くまで仕事相手と飲み、タクシーで帰宅。ほとんど睡眠を取らずに早朝、仲間の車に乗せてもらい、ゴルフ場へ向かったそうです。

 その日は10月とは思えないほど気温が高く、ただでさえ汗かきのAさんは、ゴルフウエアの背中がびっしょり濡れるほど汗をかきました。だからゴルフ後、仲間と寄った温泉はとても気持ちよかったそうです。喉がカラカラに渇いていたので、温泉に併設された休憩所で生ビールを一気飲み。「今思い出しても、あれは本当においしかった」とAさん。仲間のひとりが下戸で、「僕が運転して送っていきますよ」と言ってくれたので、大ジョッキ3杯ほどのビールを飲みました。

 ところがいざ、休憩所を出て駐車場に向かおうとすると、足がふらつく。自他ともに認める酒豪のAさんは、普段ならビールを数杯飲んだくらいで酔っぱらったりしません。最初は「珍しく酔っているのか」と笑っていた仲間たちでしたが、車までのわずかな距離の間に3度転倒したのを見て、さすがに異変を感じ、救急車を呼びました。

 救急車が到着した頃には、すでにAさんの意識はありませんでした。

 原因は脳卒中。救急搬送された先で緊急手術を受け、幸いなことに命は取り留めましたが、片足に軽いマヒが今も残っています。

 ゴルフは1ラウンド18ホール、約10キロ歩きます。糖尿病や高血圧など生活習慣病を抱えている人にとって、やり方によっては命取りになりかねないスポーツです。Aさんはプレー後に脳卒中を起こしましたが、プレー中に脳卒中や心筋梗塞を起こしたという話もよく聞きます。

 やや肥満のAさんは、脳卒中を起こした当時、血糖値、血圧、LDLコレステロールは基準値の上限ギリギリ。

 ただし、これらの数値はプレーの半月ほど前、春の健診で測った数値なので、もしかしたら基準値を超えていたかもしれません。

 睡眠不足に加え、汗をかいて体内の水分量が減っていたこと、さらに温泉で脱水症状になったところへビールを数杯飲んで、より脱水症状が進んだことが脳卒中の引き金になったのでしょう。

 健康にゴルフを楽しむには、ぜひ次のことは守っていただきたい。まず、ゴルフの前日はお酒はほどほどにし、睡眠時間を十分に取り、体調を整える。「しばらく残業続きで疲労がたまっている」「睡眠不足が続いている」「ゴルフ前日に取引先との会食が入ってしまった」というような場合は、ゴルフを諦めるという勇気も持つべきでしょう。最悪の結果を迎えるようになった……という展開は、自身の判断で避けることができるのです。

 プレー中は、水分を十分に補給する。真夏と比べて過ごしやすくなったとはいえ、10月の日中は、夏を思わせる暑さの日もあります。汗の量が多ければ、塩分を含んだ水分の補給も大切です。また、帽子をかぶる、首に冷たいタオルを巻くなどの工夫もいいと思います。

 さらに注意してほしいのは、ゴルフ時のビール。ビールは水分補給にはなりません。それどころか、利尿作用があるので、体がより脱水症状になるのです。ビールを飲んでいる最中は、喉の渇きを感じませんよね。しかしそれが、「脱水症状ではない」という根拠にはなりません。ゴルフで汗をかいた後のビールはおいしいと思いますが、体のことを考えるなら飲まない方がいい。もし飲むなら、十分に水分を取った上で、ビールを飲むようにしてください。なお、別のアルコールに関しても同じです。

 ゴルフが大好きだったのに、家族の反対もあって自由にゴルフに行けなくなったAさん。「あの時、ああしていればなぁ」と思わない日はないそうです。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

関連記事