直腸がんロボット手術で排尿障害や人工肛門は避けられるか

(中野医師提供)

 大腸がんは日本人に最も多いがんだ。納得いく治療を選ぶために知っておくことは? 大腸がん手術を多く手掛ける都立駒込病院大腸外科の中野大輔医長に聞いた。

 大腸がんの手術のうち難易度が高いのが直腸にできたがん(直腸がん)の手術だ。直腸は骨盤内の深く狭いところにあり、周囲には膀胱や前立腺などの働きを調整する自律神経があるからだ。

「手術のアプローチがしづらく、自律神経を傷つけると排尿障害や性機能障害が起こる。直腸がんのエキスパートが執刀しても、術後約3割の人に排尿障害が起こるといわれています。がんの根治性(がんを治すこと)を損なわず自律神経の機能を温存するため、当院ではロボット(ダヴィンチ)手術を積極的に取り入れています」

 2018年4月、ロボットを使った手術が保険適用になった。今は手術となった場合、開腹、腹腔鏡、ロボットの3つから選択できる。

 どれが最もいい治療法なのか?

「お腹に数個の穴を開けて鉗子という器具を入れ、医師が画像を見ながらメスや鉗子を動かす腹腔鏡手術が開始されたのは02年。それ以来、腹腔鏡が増え、現在、全国の直腸がんの手術の6~7割が腹腔鏡(ロボット手術含む)です」

■体への負担は腹腔鏡とほぼ同等だが

 ロボットも腹部の数個の穴から鉗子を入れ、画像を見ながら治療を行う点では腹腔鏡と同じ。しかし、腹腔鏡の鉗子が直線的な動きしかできないのに対し、ダヴィンチ専用の鉗子には関節があり、人間の手では不可能な角度の動きができる。腹腔鏡の欠点を補い、深く狭い骨盤の中でも正確・精密な手術ができる特長がある。

「がんを確実に取り除き、かつ自律神経を傷つけず排尿障害や性機能低下のリスクが下がる。だから駒込病院では、17年にロボット手術を導入してからは、9割以上をロボットで行っています。ただし、すべての手術にロボットを用いるわけではありません」

 腹腔鏡もロボットも、あおむけで頭を25度ほど下げた特殊な体位で手術を行う。心肺機能が悪かったり緑内障で眼圧が高かったりすると、この体位が不可になり、開腹手術の適応となる。また、腹腔内に巨大な動脈瘤やほかの障害物がある時は、腹腔鏡の方が向いているケースがある。

 気になるのは、ロボットなら人工肛門を免れられるのか?

「人工肛門には一時的と永久的があり、永久的人工肛門が必要か否かは手術法(開腹、腹腔鏡、ロボット)で変わるわけではありません。直腸がんの位置、進行度、患者さんの年齢や生活環境、患者さん自身の持つ哲学を理解して、十分に話し合った上で決定します。ロボットだから人工肛門にならないわけではありませんが、当院では以前なら永久的人工肛門の適応となる直腸がん患者さんの約85%が、肛門温存に成功しています」

 肛門近くにできた直腸がんでは、手術後、一時的に人工肛門を設置し、2~3カ月後に閉鎖するケースが大半だ。

「人工肛門がどうしても嫌だという方には、人工肛門を設置しない方向で手術します。しかし、人工肛門を設置しない場合、縫合不全による再手術や、合併症で命を落とす危険が出てくる。きちんと説明すると、大半の患者さんは一時的な人工肛門を選びます」

 中野医長のもとには、「他院で手術日を先に決められてしまったが、治療法に納得がいかない」と相談しに来る患者が少なからずいる。

「治療法より重要なのは、信頼の置ける医師を選ぶこと。手術後のリスクについて、十分に説明を受けていない方もいます。多くの直腸がんは一刻を争わない。治療のメリット、デメリットを聞き、医師と話し合った上で意思決定すべきです」

 頭に入れておこう。

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