膵がんを知る

すべてが怖いわけではない がんと間違えやすい膵臓の病気

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「見つかった時には手遅れ」という膵がんのイメージがあまりに強いせいか、膵臓の病気はすべて死につながる恐ろしい病気のイメージを持つ人が多いようです。しかし、膵臓にはがん以外にもさまざまな病気があり、比較的治りやすい病気もあります。連載直後に読者から寄せられた要望もありましたので、今回はがん以外の膵臓の病気をご紹介します。

 もっともポピュラーな膵臓の病気は「膵炎」です。膵臓で作られる消化酵素、膵液は魚や肉などは消化しても同じタンパク質で作られた膵臓は消化しないよう、膵臓内では活性化しないようにできています。ところが何かの拍子に膵臓内で膵液が活性化して膵臓を溶かす状態になったことを膵炎と言います。「急性」と「慢性」があります。症状は背中や腰、お腹の痛みやお腹の張りで、その主な原因は「飲酒」と「胆石」です。飲酒による膵炎は、お酒に含まれるアルコールが膵臓の多くを構成する膵腺房細胞に「カルシウムシグナル」「オートファジー」「小胞体ストレス」「ミトコンドリアの機能障害」などの有害な作用を及ぼすからです。

 胆石による膵炎は胆管と膵管の出口が共通なため、胆管から落ちてきた胆石が出口を塞ぐことで起こります。急性の多くは軽症で、入院して短時間絶食すれば治ります。しかし、その2割は重症化して膵液が膵臓を消化し、そのうちの1割は亡くなります。良性とはいえ油断のならない病気です。

 慢性は繰り返し炎症が起きて膵臓が小さく硬くなり、消化液やインスリンなどの分泌能が損なわれた状態をいいます。よく「酒飲みは慢性膵炎になる」といわれますが、そうとは限りません。膵臓でなく肝臓にきて肝硬変になる人、飲んでも健康な人とさまざまです。その違いはアルコールに対する遺伝子の感受性にあるといわれています。

 最近目立つのが、腫瘍性膵嚢胞です。腫瘍には良性と悪性があり、がんである悪性は「勝手に増殖」「転移・浸潤」「悪液質を発生」という特徴がありますが、良性は「勝手に増殖」しても他の特性がありません。良性、悪性にかかわらず治療は手術が基本です。

 腫瘍性膵嚢胞の中で目立つのが「膵管内乳頭粘液性腫瘍」(IPMN)です。膵管にブドウの房状の腫瘍ができるもので、主膵管型と分枝型があります。がんに移行するものもあり注意が必要です。

 脾臓に接する部分にできやすいのが「粘液性嚢胞腫瘍」(MCN)です。1~2センチなら経過観察するケースも少なくありません。「漿液性嚢胞腫瘍」(SCN)はめったに見られない腫瘍です。確定診断がつけば基本は経過観察となります。SPNは20~30代の若い女性に多い膵臓の腫瘍です。悪性である可能性はかなり低いとされています。

「神経内分泌腫瘍」(NET)は神経内分泌細胞から発生する腫瘍で、以前はカルチノイドと呼ばれていました。肺などにも見られる腫瘍で、消化器では40代で直腸に見られることが多く、膵臓での発見も増えています。検査機器の精度が上がったからでしょう。予後が悪いものもあるのでこちらも注意が必要です。

(国際医療福祉大学病院内科学・一石英一郎教授)

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