病気を近づけない体のメンテナンス

【肛門】病気を防ぐ 意外に知らない正しいウンチの仕方

洋式は前かがみのほうが出やすい
洋式は前かがみのほうが出やすい(C)PIXTA

「痔」に代表される肛門の病気を防ぐには、正しい排便習慣が重要になる。しかし、排便は個室で済ませることなので、間違った排便の仕方をしている人が意外と多い。トイレの中の理想的な所作を知っておくことが、肛門を守るケアになる。

 便意は、基本的には朝起きて午前中に催す。どうしてなのか。何回もトイレに行きたくなるのは、腸が弱いのか。「東肛門科胃腸科クリニック」(東京都渋谷区)の東光邦院長が言う。

「朝起床して、体を起こしただけでも、『起立反射』によって腸が動き出して便が直腸に送られるので、便意を催します。朝食後も、胃に水分や食物が入ると腸が動き出す『胃結腸反射』によって、便意を催すことが多い。基本的には飲食すればトイレに行きたくなるので、1日3~4回行っても普通です。大事なことは、便意があったら我慢しないこと。その都度、排便することです」

 便意を我慢すると、排便リズムが狂って便秘になりやすい。便秘になると、「いぼ痔(痔核)」や「切れ痔(裂肛)」になりやすい。

 特にいぼ痔は肛門の血管がうっ血することで起こるので、無理に出そうとして息むのがよくない。朝、トイレで新聞やスマホを見ながら長い時間、便座に腰かけている人もいるが、痔になるリスクが高くなるので要注意だ。

「排便時間はなるべく短時間で済ませた方がいい。理想は2~3分です。海外の論文で哺乳類の排便時間を測定した研究があり、哺乳類の排便時間は平均12秒だそうです。排便に時間をかけると天敵に襲われる可能性が高くなるからでしょう。人間は個室で安全に排便できますが、時間をかけて息んでいると『痔疾患』という天敵に襲われます」

 今は洋式トイレが普及しているが、本来であれば和式トイレの方が排便しやすい。それには排便時の姿勢で変化する直腸と肛門の角度(直腸肛門角)が関係する。

 人は立ち姿勢(体を伸ばしている)の時は直腸肛門角がほぼ90度で、直腸に便がたまっても安易に出ない仕組みになっている。

 洋式トイレに座って前かがみになると、直腸肛門角が約130度に開き、便が出やすくなる。和式トイレのスクワット姿勢では、直腸肛門角がさらに開き一直線に近くなり、腹圧もかかるので、より排便しやすいのだ。

 家庭の洋式トイレで排便しにくいと感じていたら、ネット通販などでも購入できる「トイレ踏み台」や「便座補助台」と呼ばれる商品を利用してみるのもいい。便座の前に置いて両足をのせる台で、足を少し高くすることで通常の座位姿勢よりも直腸肛門角が広がり、排便しやすくなるのだ。

 しかし、洋式トイレで洗浄便座が付いていた方がシャワーで肛門が清潔に保てたり、寒い冬などは温熱機能で快適に排便できたりと、メリットは多い。間違った使い方など、洗浄便座で何か注意することはあるのか。

「注意することは『使い過ぎ』や『依存症』にならないことです。間違った使い方では、排便前に肛門に強い水流でシャワーを当て、浣腸のように使用して、その刺激で排便を促す人がいます。しかし、このような排便の仕方に慣れてしまうと、洗浄便座でないトイレでは排便できなくなって、生活に支障を来します。このような使い方をしていると、洗浄便座が常備していない外国に出掛けて便秘になる人が多い」

 シャワーを浣腸代わりに使っていなくても、強い水流で洗い過ぎていたら要注意。肛門周囲の皮膚は柔らかくて敏感。洗い過ぎると皮膚のバリアーを破壊してしまい、肛門周囲の皮膚炎(湿疹)の原因になる。シャワーの水流の強さは中程度で、あまり長い時間洗わないことが肝心だ。

 排便の仕上げの“お尻の拭き方”も意外と重要で、間違っていることが多い。これもシャワーと同じで清潔を気にするあまり、拭き過ぎると肛門のトラブルを引き起こす。

「お尻の拭き方ですが、『拭く』といっても『こする』ことではありません。肛門はなるべく押し当てるように拭いてください。こすり過ぎると細かな傷を作ってしまい、そこに便や腸液をすり込んでしまうので、皮膚炎を起こしやすくなります。女性は肛門から尿道の距離が短いので、拭き方が悪いと膀胱炎の原因になることがあります」

 便意は我慢しない、排便は短く済ませる、が肛門をいたわるポイントだ。

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