膵がんを知る

膵がんへの移行も 前がん病変として気をつけたい2つの疾患

切除できればほぼ治る(写真はイメージ)
切除できればほぼ治る(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

 今回は膵嚢胞性腫瘍のなかでもとくに膵がんへの移行が懸念される「膵管内乳頭粘液性腫瘍」(IPMN)と「神経内分泌腫瘍」(NET)についてお話しします。

 膵嚢胞性腫瘍とは膵臓の中や周囲にできるさまざまな袋状の腫瘍のことです。健康診断などで受ける腹部超音波検査やCT検査などで偶然見つかることが多いことで知られています。

 IPMNはそのひとつで膵管内にできたポリープからドロッとした粘液がたくさん作られます。そのせいで膵管が膨らむためお腹や背中が痛くなることがあります。最近は高い精度の画像診断が行われるようになり、自覚症状が出る前に見つかることが増えています。

 IPMNは通常の膵がんのように発見されたときにはすでに進行がんということはありません。さまざまな段階があり、良性から悪性に変化していくことが知られています。膵管外に浸潤すると通常の膵がんと同じ悪性度の高いがんになるとされています。

 IPMNは腫瘍が主に主膵管にある「主膵管型」と分枝にある「分枝型」、それに「混合型」の3種類あり、一般的に主膵管型で膵管の太さが太いところにあるほど悪性頻度が高いとされています。過去に膵嚢胞(径)が3センチのIPMNの発がん率は14%という報告もありました。

 体の奥にある膵臓の生検は容易ではないため、多くは病理診断を欠き、画像診断で良性か悪性かを推測して悪性の可能性があれば手術します。ポリープを残さず切除できれば100%近く治すことができます。

 NETは神経内分泌細胞に由来する腫瘍です。アップル社のCEOスティーブ・ジョブズ氏が罹患したことで有名になりました。神経内分泌細胞は全身に存在しますが、NETは消化器に発生するものが6割、肺や気管支などにできるものが3割といわれています。

 膵臓にできたNETを膵NETといい、ホルモン産生症状が表れる機能性と症状がない非機能性に分かれます。主な機能性膵NETの症状はインスリンが関連するインスリノーマなら冷や汗、動悸、意識障害、異常行動といった低血糖症状、ガストリンが関連するガストリノーマなら胃・十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、激しい水溶性の下痢が1日40~50回起こるなどの症状、グルカゴンが関係するグルカゴノーマなら、糖尿病、体重減少、貧血などの症状が起きます。一方で非機能性は無症状であるため、肝転移を起こした状態で発見される場合も少なくありません。

 一般的には腹部超音波検査や造影CTなどで見つけることは可能ですが、インスリノーマやガストリノーマは腫瘍が小さいため、機能性膵NETの症状を呈しながらも発見できないこともまれではありません。手術で根治が望めますが、可能な限り切除する減量手術で予後の延長が期待できます。ちなみに、NETにあるソマトスタチン受容体にくっつきやすいペプチドに放射性物質を結合させた薬を注射して体内から照射する放射線治療が世界標準ですが、日本では未承認の状態です。

(国際医療福祉大学病院内科学・一石英一郎教授)

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