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砂糖の脱水作用でカボチャの自然な甘味を引き出す

カボチャの含め煮(手前)とピリ辛炒め
カボチャの含め煮(手前)とピリ辛炒め(C)日刊ゲンダイ
旬を食す(2)カボチャ

 カボチャは老化防止作用のあるビタミンC、血行促進作用のあるビタミンE、腸内環境を整える食物繊維などがタップリ含まれている緑黄色野菜です。

 含め煮は定番ともいえる料理ですけど、カボチャ本来の自然な甘味を引き出す大きなポイントは、最初に砂糖をまぶすことです。

 砂糖には脱水作用があります。カボチャに砂糖をまぶすことによって水分が抜け、繊維が開くため、煮汁がすっと中に入るのです。

 もちろん、大量に使うわけではありません。最初に大さじ1杯ほどの三温糖をカボチャにまぶすだけ。それで、びっくりするくらい優しい甘さに仕上がります。

 味も早く染みます。いきなり濃い煮汁で煮たとしても、軟らかくなるころには煮崩れしてしまいます。砂糖より粒子の小さな調味料が素材の繊維の隙間を埋め、味が入りにくいからです。

 調味料を最小限に抑えて、なおかつ素材のうま味を最大限に生かすためにも、砂糖の使い方が大切です。

 さらに、深緑色をした皮のゴツゴツした部分を削ぎ、面取りをすることで、煮崩れしにくく、味が入りやすくなります。このひと手間が、出来上がりを左右します。

 できれば土鍋を使うことをお勧めします。周りから火が入る通常の鍋に対し、土鍋は中心から入ります。そのため短時間で味が入るうえ、うま味を逃がさないのです。

 もう一品は薄切りにして、ニンニクと豆板醤で炒め、ピリ辛に仕上げました。カボチャは生でも食べられますから火を通し過ぎないことです。

■含め煮

《材料》
◎栗カボチャ(西洋カボチャ) 600グラム(約半個分)
◎三温糖  大さじ2
◎ダシ  4カップ
◎酒  大さじ3
◎薄口醤油  大さじ1と2分の1

《作り方》
(1)栗カボチャのタネを除き、横半分に切ってから大きめの乱切りにして、面取りをする。鍋に入れて三温糖(大さじ1)をまぶし、15分おく(写真)。水分が少し出てきてからダシと酒を加え、中火にかけて紙蓋をする。さらに鍋蓋をして5分煮たところでダシの味を見て、三温糖(大さじ1)を加える。
(2)さらに5分煮て火を切り、粗熱が飛ばす。再度加熱して味を見て、薄口醤油を加え火を切る。

■ピリ辛炒め    

 栗カボチャ300グラムの皮をむき、大きめの一口大、厚さ5ミリに切る。フライパンを弱火にかけてアーモンドスライス大さじ2を乾煎り、ペーパータオルにとっておく。同じフライパンにオリーブオイル大さじ1とニンニクのみじん切り小さじ2分の1を合わせ、中火で香味が立つまで炒める。豆板醤小さじ1、カボチャ、酒大さじ3を加えて炒め、煮汁がなくなったら味を見て、塩、白こしょうで調味。器に盛り、アーモンドをちらす。

▽松田美智子(まつだ・みちこ)女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事 」「調味料の効能と料理法」など。

面取りした乱切りの栗カボチャ。三温糖をまぶし、15分おく(作り方①)
面取りした乱切りの栗カボチャ。三温糖をまぶし、15分おく(作り方①)/(C)日刊ゲンダイ
ハロウィーンの主役に抗酸化作用

 この季節、私が研究の拠点としているニューヨークの街角のショーウインドーには、ジャック・オー・ランタンがたくさん並べられる。ジャック・オー・ランタンとは、カボチャをくりぬいて、三角の目鼻とギザギザの口をつけた魔よけの飾り物。ハロウィーンの名物である。

 ハロウィーンはケルト文化を起源としていると考えられており、もともとは秋の収穫祭であった。つまり、ちょうど今頃がカボチャの旬だということ。春に種をまかれたカボチャは夏の光を浴びてぐんぐん成長し、実りの秋を迎える。

 カボチャはなんといってもその色合いがいい。薄く扇形に切ると、深緑の皮と濃いだいだい色の果実の取り合わせが美しく、いかにもおいしそう(ただし、ジャック・オー・ランタン用には皮もだいだい色の大玉が好まれる)。緑は葉緑素、オレンジ色はカロテン。カロテンはニンジンやマスクメロン、そしてミカンのだいだい色と同じ色素。抗酸化作用があり、ビタミンAの原料にもなる。

 そして、カボチャにはさわやかな甘味がある。甘味は果実に蓄えられた炭水化物が糖質に変化することによって生じる。これは熟成と呼ばれるプロセス。熟成は果実の内部に含まれる分解酵素によるもの。分解酵素の反応は純粋な化学反応である。これは生命活動が途絶えても自動的に起こるので、甘味の増加は収穫後でも進行する。今回のレシピのように、煮たり、炒められたカボチャの実を箸でほぐすと細く糸を引くように見えるのは食物繊維がたっぷり含まれているから。ビタミンCやE、ミネラルも豊富なので、優れた健康食品といえる。

▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。

※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。

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