Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

子宮頸がんと中咽頭がんに共通 "口腔奉仕"で若者に急増中

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「子宮頚がんで手術を受けた方と放射線で治療した方のQOLは、まったく違います」

 こう言うのは、子宮・卵巣がんのサポートグループ「あいあい」の代表まつばらけいさんです。子宮頚がんを放射線で治療された方は、発症前と変わらない生活を送ることができ、「術後の合併症で苦しんでいる方に申し訳ない」と患者会の参加をためらう方もいるそうです。

 今回は、子宮頚がんが女性だけの問題ではないことをご紹介します。子宮頚がんでリンパ節とともに子宮を全摘すると、直腸や膀胱の排泄に関わる神経が障害され、排便や排尿のトラブルを招くことがあります。リンパ浮腫でむくんだ脚は、もう一方より明らかに太くなる、見た目の問題だけでなく、脚を動かしにくくなり、さらには感染症にもなりやすい。

 男性にとって重要なのが、性交痛です。膣分泌物の低下で、潤いが不足し、痛みを生じやすいのです。まつばらさんのところには、性交痛に関する相談がとても多く寄せられるといいます。

 その解決策として、潤滑ゼリーがありますが、その情報を知らずに夜の営みを続けるのは、女性にはつらいでしょう。性交渉を拒否された男性が、「嫌われた」と誤解し、夫婦関係がギクシャクすることも珍しくないそうです。それで、潤滑ゼリーを紹介すると、とても喜ばれるといいます。

 放射線でも一時的に粘膜の炎症で痛みを生じることはありますが、あくまでも一時的。そもそも子宮もリンパ節も残るので、機能は保たれ、術後の合併症のリスクも少なくて済みます。

 国際的なガイドラインでは、ステージⅡBでは放射線治療のみですが、日本は手術と放射線が併記されています。日本は手術偏重で、同等の治療効果が得られる放射線のメリットを説明されずに患者さんは手術を受け、家族の形に影を落としている可能性もありうるのです。

■進む患者の低年齢化

 夫婦関係に溝を生みかねない子宮頚がんの原因は、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染です。HPVは、セックスで感染しますから、子宮頚がんだけでなく、男女どちらにも病気を起こす恐れがあるのです。

 女性は子宮頚がんのほか、外陰がん、膣がんのリスクもあります。男性が感染すると、どんな病気になるのかというと、尖圭コンジローマ、陰茎がん、肛門がんです。

 中でも見逃せないのが中咽頭がんで、その7割はHPV感染が原因といわれます。咽頭がんのリスクとしては飲酒と喫煙がありますが、これらを原因とする咽頭がんは減少傾向で、HPVによる中咽頭がんが若者を中心に増えているのです。なぜかというと、セックスの低年齢化とオーラルセックスの定着です。子宮頚がんの発症ピークが30代ということからも、セックスの影響がうかがえます。

 いずれもHPVウイルスが感染源ですから、ワクチンを接種すれば、発症を抑えることができます。ところが、日本は副反応問題で、接種率はわずか0・3%。接種率7~8割の欧米は、患者数が減少し、子宮頚がんは過去のがんになりつつありますが、日本は増えているのです。最新のワクチンなら、子宮頚がんの9割を食い止めることができます。

 家族の形を守るためには、男性も女性もHPVワクチンを接種することが大切です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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