がんと向き合い生きていく

がん保険加入も「これから3カ月は検査しないで」と言われ…

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 建築会社に勤務するKさん(46歳・男性)は、5年前に奥さんをクモ膜下出血で急に亡くし、中学生になった娘と2人暮らしをしています。

 仕事が忙しく、ここ数年は健診も受けていませんでした。先月、同僚が膵臓がんで亡くなってとてもショックを受け、最近、胃の調子が悪い気がして心配になり、病院で検査を受けようかと考えていました。

 そんな時、ここ数年は音信がなかった従姉のGさんがお菓子を持って訪ねてきました。しばらくぶりで、なんの用事かと思いながらコーヒーを飲みつつ親戚のうわさ話を聞いていたところ、がん保険の話題を切り出されました。勧誘でした。すぐに断ろうかとも思いましたが、話が長くなっているうちに「契約してからすぐやめても構わない」とまで言われました。 結局、断りにくくなって、給付金の額が少なくても月々の支払いが大変にならない程度にして、仕方なしに加入することにしました。Gさんは書類に記載したものをチェックして持って帰り、後日、正式に保険加入ができそうである旨を知らせてきました。

 しかしKさんは、保険に入ってもがんが心配であることには変わりません。とりあえず、A病院の消化器内科を受診して、翌週に検査することになりました。

 そして、Gさんから電話があった時、「胃の調子が悪いので病院でがんの検査をしてもらうことになった」と伝えました。すると、Gさんは「これから3カ月はがんの検査はしないでください。もし、3カ月以内にがんと診断されたら保険が下りません」と言うのです。

 Kさんは思いました。

「私はがんが心配なのに、3カ月はがんの検査を受けるなだって? この間にがんが進んでしまったらどうしよう。なんのために保険に入ったんだ?がんが心配で入った保険なのに、そのためにがんの検査をするなだと? お金が大切か、体が大切か? そんなバカな話が……」

 Kさんはやはり心配になって、予定通り翌週の内視鏡検査を受けました。幸い、びらん性胃炎ということで、組織検査の必要はありませんでした。検査の結果が良かったこともあってか、Kさんの腹部の不快な症状はなくなったそうです。

■給付金が出る段階で支払われないケースも

 Kさんの保険契約の場合、契約3カ月後が「責任開始日」になっていた可能性が高いと思われます。

 責任開始日以降にがんと診断される必要がある――つまり、契約後すぐにがんが見つかった場合は、診断給付金が受け取れなかったり、契約が無効になることもあるようです。

 保険に加入する際は、面倒でも書類の規定をしっかり読んでおく必要があります。入る時は良いことをたくさん言われ、いざ給付金が出る段階で支払われないというケースがあるのです。

 がん保険の保障内容としては、がんと診断された時の診断給付金、入院した時の入院給付金、手術した時の手術給付金、がん治療での通院の場合の通院給付金、死亡した時の死亡給付金などが一般的です。さらには先進医療給付金など多くの種類があります。

 以前、患者さんから「保険が下りるように最低7日間は入院させてください」と言われたことがあります。病院は保険に合わせて退院日を決めるわけにはいきません。

 長年、保険料を払っていながら、保障内容をきちんと把握していない方も多いようです。あらためて保険の証書を見て、確認しておいた方がよいでしょう。がん保険のように特化していなくても、生命保険での医療保障はどうなっているか。その内容をしっかり確認しておき、場合によっては保障内容を変更する必要があるかもしれません。

 また、がんと分かっていても、最後の治療からの年数など条件によっては加入できるがん保険もあるようです。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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