膵がんを知る

膵がん手術を受ける場合 症例が多い施設の方が安心なのか?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 膵がんの治療は「手術」「抗がん剤」「放射線」「内科的ドレナージ術」などがありますが、根治を目指すには手術が必要です。

 膵がん手術は危険が伴い、手術中に合併症が起こる場合があります。それに適切に対処できなければ手術中や在院中に亡くなったり、入院期間が長くなったりします。

 では、手術はどのような施設で受ければいいのでしょうか。膵がん手術はさまざまな施設が行っています。年間数千症例をこなし、経験豊かな医師がいる大規模施設もあれば、年間十数症例に満たない中小の施設もあります。

 本当は手術数の多い施設で受けたいが、順番待ちを考えると自宅近くでスムーズに手術してくれる中小施設で受けるという方も多いと思います。

「膵がん手術の症例数の多い施設が、膵がん手術を受ける施設として最適か」を調べた結果を「膵癌診療ガイドライン2019年版」が公表しています。

 153編の医学論文を抽出してメタ解析した結果、全死亡率低下と在院死亡率低下、手術関連合併症低下、在院日数の短縮が見られたとしています。

 もちろん、抽出された論文はすべて後ろ向き研究ですから、データ採取の条件などにばらつきがあり、信頼性が前向き研究に比べて高いわけではありません。

 それでも論文の中には1000例以上の研究が複数含まれていることから、一定の信頼性があると見るべきです。そしてその結果が「膵がん手術の症例数の豊富な施設の方が、膵がん手術において優位」だとしていることを患者さんは知っておくべきです。

 ちなみにガイドラインを作成した先生方の投票の結果は「行うことを推奨する(強い推奨)」が49%(19人)、「行うことを提案する(弱い推奨)」が51%(20人)でした。

 もうひとつ、「開腹」か「腹腔鏡下」かの選択を迫られ悩む患者さんもおられると思います。後者なら肉体的負担も軽くて済みます。しかし、膵がんは通常の開腹手術でも難易度が高く、腹腔鏡下手術では医師の技量や経験によって結果が異なります。2016年から保険適用が認められた腹腔鏡下膵体尾部切除術は条件を満たした施設でしか許されず、周囲の臓器切除や血管合併切除を伴う場合は保険適用になりません。

 膵がん手術では比較的ポピュラーな、膵頭十二指腸切除術を腹腔鏡下で行う場合はまだ保険適用ではありません。

 19年のガイドラインのステートメントは「腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術が、開腹膵頭十二指腸切除術に比べ、術中出血量、周術期輸血率、在院日数、無再発生存期間において優れているとの報告を認める。しかし、これらは低悪性度の病変に対して習熟した施設で行われた観察研究のみに限られており、膵癌に対して妥当な術式か否かは明らかではない。さらにわが国では保険適用になっていない点も注意すべきである。以上より、わが国においては臨床研究として行うべきであって、実地臨床では行わないことを提案する」となっています。

 今後、症例の多い施設における症例の蓄積と検討により、更に安全で確実な治療計画や標準治療ができることを期待しています。

(国際医療福祉大学病院内科学・一石英一郎教授)

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