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スルメイカを加熱と生で…調味料を使い分け生活習慣病改善

スルメイカのワタ炒め(手前)と塩辛
スルメイカのワタ炒め(手前)と塩辛(C)日刊ゲンダイ
旬を食す<3>スルメイカ

 大間のマグロは冬にかけてのある時期を境に、格段に味が良くなるといいます。理由はエサがかわること。魚からイカを食べるようになるからだそうです。豊洲の仲買人さんから聞いた話です。

 スルメイカにはうま味成分でもあるタウリンが、豊富に含まれています。タウリンは肝機能を高めるほか、心臓病や高血圧などさまざまな生活習慣病の改善作用があります。ストレス軽減や免疫力向上に効果のある亜鉛も豊富です。高タンパク低脂肪で、なおかつ、栄養価も高い食材なのです。

 今回はワタ炒めと塩辛です。2品ともワタを使った料理ですから、なおさら鮮度の良いものを選びます。目が澄んだ黒色で表皮の褐色が鮮明なもの、透明感があって触った瞬間に色が変化するようなものであれば新鮮です。全体的に白っぽいものは避けた方がいいでしょう。

 ワタ炒めはイカの持つ本来のうま味を引き立てるためにニンニクとナンプラー(魚醤)を使いました。イカのワタそのものでも十分おいしいのですが、小魚を塩蔵して発酵させたナンプラーを加えることで、より味に深みが出ます。

 火を通さない塩辛はシンプルに塩、酒、鷹の爪だけを使います。

 生の身とワタそのもののおいしさを味わっていただきたいからです。できればワタをこすこと。このひと手間で食感は滑らかになりますし、味もよく絡むのです。

■ワタ炒め
《材料》
◎スルメイカ 1杯
◎ニンニク 薄切り小さじ1
◎鷹の爪 小口切り小さじ3分の1
◎オリーブオイル 大さじ1
◎酒 大さじ2
◎ナンプラー 大さじ1
◎白胡椒 少々
◎春菊 2分の1束

《作り方》
(1)春菊の葉と軸をちぎり分け、葉はひと口大、軸は斜め薄切りに。ペーパータオルで包み、冷蔵庫で乾燥させ、パリッとさせておく。
(2)スルメイカは胴体から内臓、足、軟骨を引き抜き(写真)、胴体の中の残った内臓を取り除く。胴体は筒切りにし、切り離したワタは2センチ大に切る。足は吸盤の殻を洗い流し、目とくちばしを切り離す。足を2本ずつに切り分けたら、長さ4センチに切る。
(3)フライパンにニンニク、鷹の爪、オリーブオイルを入れて中火で炒める。ワタを加え、崩すように炒めたら、スルメイカを加える。さっと炒めて酒とナンプラーで味を調え、白胡椒をふる。
(4)春菊を敷いた器に盛り付ける。
       
■塩辛
 生食用のスルメイカ1杯をばらし、ワタの一部を切り、中身をボウルに搾ったら、裏ごしする。酒大さじ2、塩小さじ2分の1、鷹の爪小口切り小さじ3分の1を加えて混ぜる。胴体から耳を外し、足とともに皮をむき、胴体と耳は長さ2センチの細切り、足は1センチの小口切りに。ワタと合わせたら冷蔵庫でひと晩寝かせ、味を調える。

▽松田美智子(まつだ・みちこ)女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事 」「調味料の効能と料理法」など。

スルメイカは胴体から内臓、足、軟骨を引き抜く(作り方②)
スルメイカは胴体から内臓、足、軟骨を引き抜く(作り方②)/(C)日刊ゲンダイ
アミノ酸、必須脂肪酸…栄養豊富な軟体動物が貝殻から進化した理由

 スルメイカと聞くと、干物を思い浮かべる人もいるだろうが、それはいわゆる「するめ」のことで、干物になる前のイカがスルメイカ。またの名を真イカ。日本近海でとれるもっとも一般的なイカであり(経済水域上で紛争になるのもこのイカ漁をめぐって)、寿司ネタとして使われるのもこのイカ。

 イカの胴体の内部には薄い板状の「骨」があるが、イカは軟体動物なので、実はこれは「骨」ではない。これは、イカがかつて貝の一種として保持していた貝殻が進化の過程で退化した名残である。

 なぜイカが貝殻を捨てたかといえば、貝殻は重く、また維持にコストがかかるから(それだけカルシウム分を摂取しなければならない)。自由と引き換えに貝殻をやめたのだ。つまり、生物の進化上は持ち家VS賃貸、どっちがいいか論争はとうに決着がついているのだ。

 さて、今回のレシピにもある「ワタ」はイカの肝臓部分。なので、アミノ酸をたっぷりと含み、イカ特有のうま味と香りに富む。また、イカは進化上、魚の前身でもあるので、魚同様、DHAやEPAといった必須脂肪酸やビタミン類も豊富。胃にもたれると言われることもあるが、それは俗説で、本来は魚と同じで消化されやすい。イカはたくさんとれ、安くて栄養豊富、骨もなく調理も簡単なので、古来、日本人の食を支えてきた大変優れた食材なのである。

▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。

※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。

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