Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

E・ジョンは失禁を告白 前立腺がんの手術後はオムツ生活に

前立腺がんの全摘手術を受けていたことを告白したエルトン・ジョン 
前立腺がんの全摘手術を受けていたことを告白したエルトン・ジョン (C)Geisler-Fotopress/DPA/共同通信イメージズ

 驚いた方も多いでしょう。英国の人気歌手エルトン・ジョン(72)が2年ほど前に前立腺がんの全摘手術を受けていたと報じられました。幸い早期で完治しているようですが、手術10日後には、手術の合併症の尿漏れ対策で、大人用オムツをはいて米ラスベガスのステージへ上がり、演奏中に失禁していたと明かしているのです。

 詳細は現地で販売された自伝「ME」に告白したものを英紙が伝えています。「これまでステージでいくつものばかげたものを身につけたが、大きなオムツをつけたことはなかった」と記述しているそうで、ショックな様子がうかがえます。私も膀胱がんの内視鏡手術後に尿漏れ対策でオムツをあてましたが、プライドに傷がつきました。

 予測値では、前立腺がんの罹患数が2020年に10万人を超え、男性のトップになるとみられています。

 英国のカリスマのようなケースは他人事ではないだけに、今回は前立腺がんの手術による合併症について説明しましょう。

 男性の排尿は、尿道括約筋と前立腺が調節しています。そこで注目が、前立腺がんが生じる部位です。多くは、尿道括約筋と接する下側で、そうすると、手術では尿道括約筋からはがすような操作を行うことが多くなるため、尿道括約筋が障害されやすい。

 手術後には2人に1人の割合で、せきやくしゃみをしたときなど腹部に力が入ったときに、チョロッと漏れることが多く、医学的には腹圧性尿失禁といいます。術後10日でのステージなら、失禁は仕方なかったかもしれません。

 症状は、時間とともによくなり、半年ほどでほぼ改善するといわれますが、1割はその後も尿漏れが残るという報告があります。尿漏れパッドが欠かせない生活は、ショックです。

 前立腺の周囲には、勃起に関係する神経が、くまなく走っていますから、2つ目は性機能障害。年齢や手術前の勃起能力によっては、神経温存手術で能力維持は不可能ではありませんが、完全に維持するのは難しいのが一般的です。

 前立腺がんは、悪性度が低いタイプが多く、それなら治療をしないで経過観察する監視療法という選択肢があります。高齢者に多いのも特徴で、見つかったときの年齢と期待される余命から、亡くなるまでがんが悪さをしないと判断できれば、何もしないという考え方です。

 その途中にがんが悪化したら、放射線治療を選択すれば、2大合併症を防ぐことができます。高齢ゆえ、「性機能は関係ない」と思っても、尿漏れはつらいはず。アクティブに生活を楽しみたい人なら、なおさらです。そんな視点で、治療法を選択することが大切でしょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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