進化する糖尿病治療法

遺伝子と関連 親が糖尿病なら子供も発症リスクが高くなる

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写真はイメージ (C)日刊ゲンダイ

 たけし軍団のメンバー、グレート義太夫さん(60歳)は、36歳の時に糖尿病が発覚。当時の血糖値は630㎎/デシリットルで、即入院となったそうです。その後は「インスリン注射を打つ→病院に行かなくなる→数カ月後に病院に行くが、また行かなくなる」を繰り返し、14年経った頃には人工透析。2011年の日刊ゲンダイでのインタビューで「戻れるなら、“まだ糖尿病”というときに戻りたい。ほんと、人工透析は勘弁してほしい」と話されています。

 記事によると、グレート義太夫さんが糖尿病を発症する1年前、お父さまが糖尿病と腹部大動脈瘤破裂で亡くなったとのこと。しかし、まさか自分も糖尿病とは思っておらず、体がだるい、疲れがひどい、喉が渇く、トイレを1時間すら我慢できない、という“異常”があっても、すべて夏バテの症状だと思っていたとか……。

 糖尿病は、親が糖尿病の場合、子どもも発症しやすいと言われています。片方の親が2型糖尿病の場合、子どもが2型糖尿病になる確率は27%、両親が糖尿病の場合は58%、という報告もあります。

 その理由は、まず遺伝子です。2型糖尿病は日本人の糖尿病の9割以上を占めますが、この2型糖尿病と関連が指摘されている遺伝子の数は200近く。中でも日本人の発症リスクに関係しているのが、11番染色体にある「KCNQ1遺伝子」です。KCNQ1遺伝子があると、この遺伝子からつくられるKCNQ1タンパク質によってインスリンの分泌が妨げられ、血糖値が下がりにくくなるのです。

 2008年、理化学研究所の前田士郎博士が、KCNQ1遺伝子には遺伝情報が1文字だけ変化した「リスク型」があることを発見。このリスク型を、2本ある11番染色体の両方に持つ人は、そうでない人の2倍、2型糖尿病の発症リスクが高いと発表しました。

 2型糖尿病発症と関係が深い遺伝子が親から子どもへ伝われば、親と同じく子どもも糖尿病発症リスクが高くなるでしょう。

 しかしながら一方で、親が糖尿病であっても子どもが糖尿病でない家系、または親は糖尿病でないのに子どもが2型糖尿病を発症している家系は、決して珍しくありません。「親は糖尿病でないのに子どもが糖尿病」という家系では、もしかしたら親も糖尿病発症に関する遺伝子を持っていたかもしれず、しかしそれでも親は発症しなかったということも考えられますので、親が糖尿病でなくても安心はできません。

■食生活が受け継がれてしまうケースが

 前述の通り、親が糖尿病、特に両親が糖尿病の場合、子どもの糖尿病発症リスクは高くなる。しかし遺伝子に加え、糖尿病発症に大きく関係していることのひとつが、食生活です。

 親が“糖尿病を発症しやすい食生活”を日常的に取っている場合、子どもにもそれが受け継がれてしまうケースがあります。

 たとえば、親が偏食で野菜や魚が嫌い、肉が好きでコッテリした料理が好き。甘い菓子類も好きだったとします。

 朝食は菓子パンとジュース、昼はコンビニ弁当、夜は肉や揚げ物中心の料理や店屋物。小さい頃からそういう食生活を“普通”だと思って育てば、成人後、自分で好きなものを選んで食べられるようになっても、自然と親から受け継いだ食の好みを優先させてしまうのではないでしょうか? 正しい食生活を頭で分かっていても、濃い味付けに慣れた舌を、薄味好きに変えるのはかなりの努力が必要です。野菜や魚など食べ慣れていないものも選ばない。

 すると、糖尿病発症に関係する遺伝子を持っていなくても、糖尿病発症リスクが高くなる。

 逆もしかりで、糖尿病に関係する遺伝子を持っていても、食生活にこだわり、適度な運動を取り入れた生活を送っていれば、糖尿病発症リスクは低くなる。その“糖尿病を発症しにくい生活”が子どもに受け継がれれば、子どもも糖尿病を発症しづらくなるでしょう。

 これは世界でより注目されていることですが、貧困による糖尿病のリスクがあります。経済的な理由で安価なインスタント食品やスナック菓子に頼らざるをえない生活は、糖尿病発症リスクを高めてしまう。「食育」は意識の改革でなんとかできても、貧困による糖尿病リスクは、医師や本人だけでは解決しづらい問題です。

 同様にストレスや睡眠不足も問題です。糖尿病患者さんの若年発症に大きく影響していると考えられております。とても難しい問題ですが、こちらも意識していただくことは大切と考えています。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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