後悔しない認知症

注目されている「認知症カフェ」の有効活用術

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 台風一過。久々に晴れた日の朝、自宅近所のコーヒーショップでほほ笑ましいシーンに遭遇した。3人ずつ、おそらく、ふたつの家族と思われる6人が穏やかな表情で談笑している。その2家族は親しい間柄なのだろう。1組は車椅子に乗った90歳前後の男性とその娘とおぼしき60代の女性と30歳前後の女性。もう1組は90代女性、60代男性、そして30代半ばの女性。それぞれ親、子ども、孫の3代と思われた。

 聞き耳を立てていたわけではないが、聞こえてくる会話やその様子から判断して、高齢の2人は認知症と推察された。「あれ、忘れちゃった?」「おばあちゃんわかる?」「今日は何曜日だっけ」などと認知症の親、祖父、祖母に語りかける。決してコミュニケーションはスムーズではないが、一人としてヒステリックな声を上げることはない。認知症と思われる高齢者もそれぞれ「そうだったっけ?」「忘れちゃったよ」などと応えるが、笑みを絶やすことはない。6人それぞれが穏やかな表情でその時間を楽しんでいるように私には思われた。

 認知症になると多くの場合、人と会うこと、外出することに対して消極的になる。また、その子どもや孫も、相手の迷惑、事故の危険性などを考えて人に会わせること、外出させることに少なからずためらいを覚える。認知症の高齢者は、次第に家で一人で過ごす時間が多くなってしまう。その結果、脳を刺激する機会、日の光を浴びる機会、運動する機会が減る。これが認知症の進行を速めてしまうことになる。デイサービスはその意味でも有効なのだが、回数が限られる。この家族のように、機会を見つけてどんどん外出の機会、会話の機会をつくるべきだ。認知症の高齢者はもちろん、介護する家族にとっても気晴らしになることは間違いない。

■本人には刺激、家族には情報交換

 いま「認知症カフェ」が注目されている。厚労省は2012年に「オレンジプラン」と呼ばれる認知症施策5カ年計画を発表したのだが、その中で「認知症カフェの普及」を提言した。「認知症カフェ」という場での交流を通して、認知症進行を遅らせ、加えて認知症患者とその家族が地域の中で孤立してしまうことを回避する狙いのようだ。

 認知症の高齢者を抱えた家族は、そこに集まる医療従事者やケアマネジャー、介護ヘルパー、各自治体の「認知症地域支援推進員」からの指導や情報も得られる。さらに、健常者と認知症患者、またその家族が交流することで認知症の正しい理解、家族間での情報交換などを図る場ともなっている。

「認知症カフェ」の多くはNPO法人によって運営されているが、参加費も数百円程度で安く、お茶とお菓子が用意されていて参加者は3時間程度、談笑やレクリエーションの時間を楽しむことができる。認知症の人がカフェの手伝いをするケースもある。もちろん、通常のカフェと同様、出入りは自由だ。

 こうした場で認知症の人同士が会話を交わしたり、家族同士が悩みを打ち明け合ったり、自宅介護の知恵を教え合ったりすることも可能だ。認知症の人にとっては、ある意味で「認知症仲間」として本音でコミュニケーションができるし、気晴らしにもなる。家族もまた同様に「介護仲間」として交流することで有益な情報を得る機会になり得るし、同じ悩みを共有することで心理的負担の軽減も図れる。

 冒頭で紹介したように、認知症の高齢者が家族と機嫌よく過ごす時間はもちろんだが、「認知症カフェ」のような場での地域の人との交流を通じて脳を刺激することも、認知症の進行を抑えるためには有効だ。「認知症カフェ」の情報は各地にある「地域包括支援センター」に問い合わせてみるのがいい。認知症の本人にとっても、家族にとってもいい出会いの場になるかもしれない。

和田秀樹

和田秀樹

1960年大阪生まれ。精神科医。国際医療福祉大学心理学科教授。医師、評論家としてのテレビ出演、著作も多い。最新刊「先生! 親がボケたみたいなんですけど…… 」(祥伝社)が大きな話題となっている。

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