ドクターXが見分ける いい医者いい病院

薬を多量に処方する医者はダメなのか?

(C)日刊ゲンダイ

 高齢者の家には飲み切れない薬が大量に余ってしまったり、日本の医療はしばしば“薬漬け”と呼ばれることもある。薬をたくさん出したがるような医者は気を付けた方がいいとも言われる一方で、患者の求めに応じて医師は処方するため、結果として多量の処方になってしまうとも聞く。果たしてこれはどうなのか?

 ――薬の大量処方で病院は儲かるのでしょうか?

「病院が薬で儲けることができたのは昔のことで、薬を多く処方したからといって今は病院や医者の収入が増えるわけではありません。2年ごとに薬価改定が行われますが、現在は1人の患者さんに7種類以上の投薬(投与期間が2週間以内のものは除く)を行うと、診療報酬点数が下がります。病院としてはむしろデメリットの方が大きいのです。具体的には、7種類以上を処方した場合、処方料(院内)は42点から29点に、処方箋料(院外)は68点から40点と低くなります。診療報酬点数は1点につき10円の計算ですから、病院としては130円と280円のマイナスになるのです」

 ――薬を出したがる医者がダメというわけではなさそうですが、そうすると、病院経営のために薬を減らす医者はどうでしょうか?

「医者にとって最大のインセンティブは、『患者さんが良くなること』です。薬が減っても体調が良くなるのであればいいのですが、処方料・処方箋料の減額を回避するために投薬を減らすという医者は少ないでしょう。本当に必要なら、病院経営にマイナスでも処方したいのです」

 ――顧客満足の向上のための投薬、つまり「あの先生は薬も出してくれない」と不満に思う患者もいます。特に開業医にとっては患者の満足度が低ければ客が減り、経営を圧迫してしまいますね?

「患者の満足度は病院経営に関わる重要事項のひとつです。風邪で受診した際、『よく食べて、よく寝てくださいね』と帰されるより、薬を処方してくれる医者の方が圧倒的に満足しますよね。例えば、風邪の患者さんに抗生物質を処方するのは、患者の満足度を上げたい側面が大きいと感じています。ただし、ウイルスが原因である風邪に細菌を殺す抗生物質は効きません。むしろ、むやみに抗生物質を出すと、抗生物質が効かない耐性菌の問題も出てきます」

 ――薬の大量処方は副作用の問題もありますね?

「あちらの病院、こちらの病院でそれぞれ薬をもらう場合、お薬手帳で管理しないと危ないですね。消炎鎮痛剤のロキソニンという薬があります。副作用で胃潰瘍ができたり、胃が荒れるといった人は少なくありません。このロキソニンは現在、薬局やネット販売でも購入できますが、後発医薬品(ジェネリック)として別の名でも販売されており、もし気付かずに重複して飲むと副作用が心配されます。患者さんに『薬を減らしたい』と言われれば、嫌な顔をする医者はいません。薬のメリットとデメリットを考慮し、適正に処方されているのか考えることが大事です」

 少なくとも副作用をしっかり説明してくれる医者は信用できそうだ。

(構成=稲川美穂子)

中山祐次郎

中山祐次郎

1980年生まれ。鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院大腸外科医師(非常勤)として10年勤務。現在は福島県郡山市の総合南東北病院に外科医として籍を置き、手術の日々を送る。著書に「医者の本音」(SBクリエイティブ)、小説「泣くな研修医」(幻冬舎)などがある。

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