Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

15~39歳のAYA世代は8割 若い女性にがんが多い今時の事情

乳がんと闘った故・小林麻央さん
乳がんと闘った故・小林麻央さん(C)日刊ゲンダイ

 がんは、遺伝子のコピーミスが原因ですから、高齢社会の今、加齢によって増えるのはある意味当然です。全世代を見渡すと、男性の方が多いのですが、15~39歳の「AYA世代」に限ると、女性が圧倒的なことが分かっています。

 国立がん研究センターと国立成育医療研究センターがまとめた報告書によると、AYA世代のがん患者のうち、女性は76%。男性は4人に1人と少なく、全世代の傾向と逆転しています。年代別にみると、19歳以下は女性が5割以下ですが、20~24歳で6割を超え、25歳以降は8割前後と高くなっているのです。

 なぜ、20歳を越えると女性にがんが増えるのでしょうか。原因のひとつは乳がんの増加です。乳がんは年間、約9万人が新たに診断されていて、約1万5000人が亡くなっています。死亡数は、この30年で3倍。女性の11人に1人が乳がんになる計算で、今や10人に1人は目前です。

 ほかのがんと違って、乳がんを増加させる要因として大きいのが女性ホルモンの影響でしょう。女性ホルモンによって、乳がん細胞は増殖しますから。それと関連して見逃せないのが、晩婚化と出生率の低下などの影響です。

 栄養状態の改善で、日本人女性の初潮開始年齢が早まる一方、閉経年齢は遅れる傾向に。妊娠、出産、授乳の2年程度は女性ホルモンの分泌が止まり、乳がんのリスクが下がりますが、出生率の低下でその恩恵にあずかる人が減っています。

■乳がんの患者数は東京が鹿児島の2倍以上

 実は乳がんが最も多いのは東京で、最も少ない鹿児島の2倍以上なのは、東京の出生率が全国最下位なのと関係があると思います。都市部の便利な生活による運動不足や肥満も関係しているでしょう。

 そんなことが重なって乳がんの患者数は、ピークを打つ40代後半にかけて右肩上がり。2年前に乳がんで亡くなった小林麻央さんは、34歳の若さでした。

 その次は、甲状腺がんと子宮頚がんの影響が考えられます。甲状腺がんは男女ともに発症しますが、男女比は1:3と女性に多い傾向。男性は60代以降に発症しやすいのに対し、女性は40代から増えるように男性より若く発症するのです。

 子宮頚がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因。HPVはセックスによって感染しますから、セックスの低年齢化に伴って子宮頚がんが増加傾向なのです。

 小児では、白血病や脳腫瘍、性腺腫瘍などもよく見られますが、AYA世代の女性特有の事情としては、これらが大きいと思われます。

 対策として、乳がんは2年に1回のマンモグラフィーと自己触診を、子宮頚がんにはHPVワクチンの接種が効果的。甲状腺がんは検査で見つかりやすいものの、進行が遅いタイプが珍しくありません。検診が普及した韓国では、過剰診断と過剰治療が問題になったことがありますから、治療の前にはセカンドオピニオンを求めることをお勧めします。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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