遺伝子治療薬はここまで来ている

「遺伝子治療薬」の登場は科学技術の進歩のたまもの

写真はイメージ
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 近年、新しい治療薬の開発が急速に進んでいます。遺伝子を導入したり制御するタイプ、幹細胞を投与するタイプ、自分自身の細胞を一度取り出し細胞を操作してから再び体に戻すタイプなど、これまで考えられなかったようなものが薬としてたくさん登場しているのです。

 それらは効果に対する期待に加え、時に超高額薬剤として世間を賑わせています。当コラムではこうした新しいタイプの薬について詳しくお話ししていきます。

 新しいタイプの薬を広義に捉えると「遺伝子治療薬」といえます。そう聞くと「体内の遺伝子をすべて書き換えて、病気の原因遺伝子を取り去る」ようなイメージを持つ人も多いと思いますが、そうではありません。ヒトは約35兆~60兆個の細胞でできているといわれていて、それらのほぼすべてに核があり、約2万種類の遺伝子が入っています。ですから、すべての遺伝子を書き換えるのは難しく、ほぼ不可能といってもよいでしょう。 では、遺伝子治療薬はどのようなものかというと、「限定的な臓器(病気の原因になっている臓器)に対し、遺伝子を導入したり制御したりすることにより、病気の治療を行う薬」を指します。

 それまで、薬のほとんどが化学合成か天然物から抽出した化学物質でしたが、遺伝子治療薬は化学薬品ではなく、生体内にある物質を人工的に合成したものです。化学薬品ではない物質を合成し、安全面や衛生面を考慮した「薬」として発売するというのは科学技術の大きな進歩であるといえます。

 今後、こうした新しい薬が幅広い疾患に使われるようになり、これまで治療が難しかった病気の治療にも役立つのではないかと注目されています。次回からその一端を紹介していきます。

神崎浩孝

神崎浩孝

1980年、岡山県生まれ。岡山県立岡山一宮高校、岡山大学薬学部、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科卒。米ロサンゼルスの「Cedars-Sinai Medical Center」勤務を経て、2013年に岡山大学病院薬剤部に着任。患者の気持ちに寄り添う医療、根拠に基づく医療の推進に臨床と研究の両面からアプローチしている。

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