ガイドライン変遷と「がん治療」

胃がん<2>腹腔鏡の胃全摘 ステージIで"容認”されているが…

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 胃がんの手術には内視鏡的切除、縮小手術、定型手術、拡大手術、非治癒的手術などがありますが、どの手術を選択するかが肝心。ガイドラインには進行度に応じたお勧めが書かれています。進行度は「TNM」と呼ばれる分類法に基づいて判定されます。Tはがんの大きさ、Nはリンパ節転移の程度、Mは他臓器への転移の有無を表しますが、我々が普段から目にするステージ分類に換算して見ていきましょう。

 内視鏡手術はステージⅠA(がんが胃粘膜下層まででとどまっており、リンパ節転移がない)まで、しかも大きさが直径2センチまでとされています。それより大きいか、深くまで達していると縮小手術(胃を3分の2以上残す)に移行します。ステージⅡとⅢでは、定型手術が行われます。胃の3分の2以上を切除(全摘を含む)し、リンパ節郭清も行われますが、ステージが上がるほど郭清の範囲が広がります。また、隣接する臓器や組織にがんが浸潤していると、拡大手術(周辺臓器の一部を含めた切除)となります。ステージⅣ(他臓器転移がある)では根治は目指さず、症状を改善するための非治癒的手術が行われることがあります。

 ステージと手術の関係は、細部で多少の違いがあるものの、2001年の初版ガイドラインから現在まで、基本的には変わっていません。もちろんこの間にも、内視鏡や手術器具などの改良が続けられていますから、手術の精度や安全性はかなり上がっているはずです。

 18年版では、腹腔鏡を使ったステージⅠの胃の全摘は「考慮してもよいが、十分な科学的根拠はない」と書かれています。これは腹腔鏡と開腹のランダム化比較試験が行われていないためです。しかし健康保険ではすでに腹腔鏡による胃全摘まで認められており、実際には、ある程度普及しています。

 統計によれば、15年における胃がんの新規患者は約12万9000人。同年に行われた胃がん手術は約10万6000件で、そのうち約5万2000件が内視鏡手術でした。

 胃がん患者の40%はごく早期で見つかっているというわけです。また、腹腔鏡手術は約2万1000件。そのうち胃全摘は約3300件ありました。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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